ミズノ白杖プロジェクト鼎談 ミズノ白杖プロジェクト鼎談

ミズノの知見と技術で、視覚障がい者が抱える課題に光をもたらす

ミズノでは、長年にわたるスポーツ用品開発で得た知見や技術を生かした新規事業に挑戦し続けています。そのひとつとして誕生したのが、視覚障がい者向け白杖『ミズノケーン』。今回は、新規事業としてこのプロジェクトを提案して取り組んだメンバーに、開発のきっかけや困難、諦めずに挑戦を続けられた理由などについて話を聞きました。

スポーツ用品開発の知見と技術で白杖の課題解決をめざす

――開発のきっかけを教えてください。

清水 : 社内研修で、企業と連携しながらプロダクトやサービスの社会実装を推進することで社会問題を解決へと導く一般社団法人PLAYERSのリーダー・タキザワケイタさんの話をうかがう機会がありました。それがご縁となって視覚障がいを持つ方々とお話しすることになり、そこで「白杖には課題がある」という話を聞いたのが最初ですね。それをきっかけに、社内で「何か一緒に考えてみませんか?」と声を掛け、加瀬や長谷川に加わってもらいました。

――最初からミズノが持つ技術や知見が白杖開発に生かせると考えていましたか。

加瀬 : 白杖の困りごととしては、アンケートやヒアリングで「重い」や「折れる」という内容が多く、ゴルフクラブのシャフトに用いられているカーボン技術を応用すれば、事業化の可能性は高いと考えていました。実際に、ゴルフクラブを開発するスタッフに相談してみると「親和性がある」と。

――視覚障がい者向けの白杖には、どんな要件が求められるのでしょうか。

長谷川 : 外出したら長時間使用するので「振りが軽い」や「折れない」といった点が大切です。さらに先端から地面の情報を得るので、点字ブロックや地面からの情報の「伝導性」も重要。このあたりは、ゴルフクラブのシャフトとの共通点でもありますね。

視覚障がい者の喜びや驚きが原動力に

――白杖の開発中、困難や大変だったことはありましたか。

長谷川 : ゴルフシャフトのカーボン技術が白杖開発に役立ちそうなことは、最初から感じていました。しかし、企業が事業として取り組む以上は、事業として成立する可能性を理解してもらわなければならないのも事実。視覚障がい者向け商品はほとんど社内に知見がなく、市場や事業性に関するデータや経験が不足していました。そのような状況下で、事業可能性のある取り組みとして理解してもらうのに苦労しました。

清水 : ただ、視覚障がい者の皆さんに試作品を使っていただくと、10人中10人が「すごい!軽い!」と驚いてもらえたんです。実際にミズノ本社にも視覚障がいの当事者の方々に来ていただき、彼らの声をしっかりと社内にも伝えて、ミズノが白杖を作る意味や優位性に関して理解をしてもらいました。

長谷川 : 一般的な白杖はカーボン製で200g程度です。また市場にはシンボルケーンといってとても軽い杖も存在しているのですが、それらは地面に突いて利用するものではなく視覚障がい者であることを周囲に伝えるためのものであるため、きゃしゃで折れそうなんです。しかし『ミズノケーン』は、シンボルケーン並みの143gという軽さを実現しながら、しっかりと地面をつくことができ、強度も感じられて、振り心地もとても良いと評価していただいています。

――同じカーボン製でも大きな違いがあるのはなぜですか。

長谷川 : 『ミズノケーン』は、炭素繊維とガラス繊維の割合やカーボン繊維の流れの向きといった、カーボンの強度や重量に影響する要素を考えながら設計しているからです。カーボン本来のしなやかで強いという強みを生かしきった白杖といえます。

加瀬 : あとは形状ですね。ゴルフクラブのシャフトを製造している技術を応用して、『ミズノケーン』も先端に行くほど細くなる形状を採用しています。これが地面の情報を伝える伝導性を高めたり、カッコ良さを演出しています。

――実際の開発では、ゴルフシャフト製造のノウハウや知見がそのまま生かせたのでしょうか。

加瀬 : それがゴルフシャフトと白杖は長さも違いますし、ゴルフシャフトはしなりが必要なので、白杖にそのまま用いるには柔らかすぎるんです。そのあたりを白杖向けに調整していきました。ただ、一番大変だったのは「ルールがないこと」でした。スポーツ用品にはさまざまな規格や規定があり、それらに適合するように開発していくので、白杖にはそういった明確な規格や品質基準がなくて。そのため、独自の基準づくりから取り組む必要があったのが大変でした。

清水 : 耐久性を例に取って説明すると、白杖にはどのぐらいの力に耐えられれば製品として合格とするかの製品品質基準がありませんでした。簡単に壊れる白杖は論外ですが、耐久性を高めすぎて全く折れないほど強い白杖になると、例えば自転車の車輪に巻き込まれた時など当事者や周辺の方への被害が大きくなるリスクも考えました。そこで他社製品を買ってきて、どのぐらいの力で壊れるかを確かめながら、適正な耐久性の基準範囲を定めるところから始めました。

――困難を乗りこえる力の源泉は何だったのでしょうか。

清水 : ミズノが白杖を開発することを視覚障がい者の皆さんに伝えると、とても嬉しそうにしてくださるんですよ。視覚障がい者の方々にとって白杖は普段から手元にある相棒であるが、今の市場にある製品には満足しきれていない。もしかしたらミズノならよりよいもの作ってくれるかもしれない。という期待を感じました。真剣に作った白杖を一刻も早く届けたいという想いが原動力になりました。

長谷川 : やはり視覚障がい者の皆さんに試作品を手渡した時、驚いて喜ぶ表情を見たのは大きいですね。こんなに喜んでもらえるのなら、もうちょっとがんばってみよう、と。あと、「カッコイイ」と言われることが多いんですよ。弱視の若い方から「めちゃくちゃ可愛い!」とか「カッコイイ!」と言っていただくことが結構あって。スポーツメーカーのアクティブさや軽快なイメージがプラスに働くようです。

加瀬 : 我々は当事者ではないので、この白杖がどのぐらいすごいのか、本当のところはわかりません。でも、驚きや喜びの大きさを見たら、ちょっとしんどくてもがんばろうと思えましたね。

ミズノの知見や技術には社会を良くする力がある

――今後の展開や目標があれば教えてください。

加瀬 : 今回は直杖と呼ばれる1本の棒状の白杖を開発しました。この直杖を使っている方は、白杖使用者の中の1割程度なんです。ですから、より多くの方が使っている折りたたみ式の白杖開発にも挑戦したいと思っています。

清水 : 白杖以外の視覚障がい者向け商品を開発してみたいです。例えば、足の裏の感覚を増幅するシューズは既にミズノの製品としてありますし、白杖を持つ手を守るプロテクターなんかは、ミズノの技術を生かし商品化できそうな気がします。『ミズノケーン』の発売後、スポーツで培った技術や知見を市場の中で展開する可能性がたくさん見えてくると思っています。

長谷川 : ミズノが白杖を発売することで、晴眼者(目が見える人)と視覚障がい者の間に「カッコイイ白杖ですね」といったポジティブなコミュニケーションが生まれたり、視覚障がいがあっても外の世界に飛び出すきっかけになれば嬉しいですね。

REACH BEYOND ITEM

ミズノケーン

軽さ、耐久性、デザイン性を追求した白杖

3人が中心となって開発した白杖はカーボン製で、全長135cmに対してわずか143g。しかもミズノのゴルフクラブのシャフトにも用いられている高度なカーボン技術により、軽量化を実現しました。
さらにヒアリングを進める中で、「視覚障がい者の方も晴眼者と同じく『自分自身の見え方』を気にしている」(清水)ことに気づき、デザイン性も追求。ランダムな大小の三角形を地模様としてデザイン。先端にはブルーのアクセントカラーを配し、従来の白杖のイメージを覆すビジュアルに仕上がっています。