厚底野球スパイク誕生~これからは野球も厚底の時代だ!~

ランニングシューズやスニーカーの厚底人気はいわずもがな。そんな中、いま野球スパイクにも厚底の波が来ています。野球スパイクは軽くてナンボ!ソールは薄ければ薄いほどいい!そんな発想を覆すような、昔は想像もしなかったような”厚底”のスパイク。2024年2月にクッションレボプロとしてデビューを果たしました。そこには企画担当者の熱い思いと、たくさんの試行錯誤がありました。

野球スパイク企画担当の鈴木

今回話を聞いたのは、野球スパイクの企画担当の鈴木です。いわゆる強豪校の野球部出身、生粋の野球人。2021年春に念願の野球スパイクの企画担当になりました。発案から全て1人でやった最初のスパイクの1つが、今回のクッションレボプロです。

野球がいかに楽しくて、野球をできることがいかに素晴らしいことか。鈴木自身、高校時代に大きな怪我をしてしまい、たくさんの夢を諦めました。だからこそ強く思うのが、”怪我のない野球界にしたい”ということ。一日でも一分でも長く、この野球という最高なスポーツを楽しんでほしい。より高いレベルを目指してほしい。そのために根っことなる足元から選手たちを支えていきたい。そんな思いで当初から今も変わらず野球スパイクの企画をしています。

鈴木が企画担当になったちょうどその頃、プロ選手からは足の負担軽減を求める声が多く上がっていました。2021年夏や2023年春の各国際大会に照準を合わせ、メジャー球場同様の硬いグラウンドに変化していたためです。さぁ、自分には何ができるのか?

金具スパイクの魅力は、グリップ力があること。ただ、金具の突き上げ感が強く、足には負担がかかります。一方で、ポイントスパイクはその突き上げ感が少なく、足には負担をかけづらいメリットがあります。小学生はその辺りを考慮し、ポイントスパイクの着用のみとされています。

高校野球においては、近年ポイントスパイクの着用者が増えてきました。プロ野球選手を目指し、長い野球人生を想定する中で、足元の負担を意識する学生が増えたことが一つの要因です。グリップ力と負担軽減を兼ね備えた、いいとこ取りのスパイク。それこそが学生、プロ選手ともに求めるスパイクなのではないだろうか?そうと分かれば、突き進むのみ。企画スタートです。

(左から)ポイントスパイク、金具スパイク

高いグリップ力と負担の少なさ、その両軸を兼ね備えたスパイクを作る。当時すでにメジャーリーグでは主流だった厚底の金具スパイクに挑戦してみることにしました。これまで蓄積したノウハウも駆使しながら、2022年春頃に初代サンプルが完成!さまざまなプロ選手に履いてもらい、フィードバックをもらいました。

しかし、初お披露目の結果はまだまだ課題だらけ。フィット感が悪い、快適性がない、そもそも重い…など。このままでは到底履いてもらえない。ミズノの野球スパイクを背負う者としてのプレッシャーを感じながら、山積みの課題と一つずつ向き合っていかなければなりません。
そこからは試行錯誤の繰り返しです。何度もサンプルを作っては選手を訪問し、フィードバックをもらい続けました。履いた瞬間のクッション感やプレー中のフィット感など、宿題をもらっては野球スパイクチームと相談し修正、ソール部分はなんとなく形になってきました。

(左から)初代サンプルと完成品のアッパーの違い、同じく初代サンプルと完成品のソールの違い

(上から)初代サンプルと完成品のアッパーの違い、同じく初代サンプルと完成品のソールの違い

「ミズノの野球スパイク=軽い」のイメージのきっかけになったのが、ライトレボシリーズです。そのライトレボシリーズのアップデート計画が同時期に進んでいました。軽量性はキープしたまま、よりフィット感のあるアッパーにする計画です。鈴木の考えるフィット感とは、突発的な動きが多い野球というスポーツの中でも、足の屈曲を邪魔せずストレスフリーに素足感覚で動き回れること。

今までのミズノの野球スパイクのアッパーは凸デザイン(ラインが浮き出ているデザイン)が主流でしたが、よりフィット感を高めるために今回取り組んだのが凹デザイン(ラインがへこんでいるデザイン)です。凹デザインにすることで、足の屈曲に沿ってスパイクも曲がってくれるという発想です。今までとはガラっと異なるアッパーデザインであると同時に、デザインにも機能をもたせています。

(左から)ライトレボ旧モデル・新モデルを屈曲させたときのへこみ方の違い

(上から)ライトレボ旧モデル・新モデルを屈曲させたときのへこみ方の違い

話をクッションレボプロに戻します。ソールが固まりつつある一方で、アッパーはまだ改善の余地がある状態でした。ヒアリングをしていく中でたどり着いたのが、ストレスフリーなフィット感を求められているということ。つまり、ライトレボの新モデルのアッパーこそが最適なのではないかという一つの仮説です。
その仮説をもって臨んだ2023年春のキャンプで、まだ試作段階だったライトレボの新モデルを履いてもらうと、「このアッパーです!」と。仮説ズバリ!ドンピシャでした。そこから先は、厚底ソールとライトレボのアッパーを合体させて、微修正を繰り返しました。

定番品のシューズ作製よりはるかに多い数のサンプルを作製し、ようやくプロ選手にも実践で履いてもらえるレベルの野球スパイク、クッションレボプロが完成。たくさんのコストと時間をかけてでも達成しなければいけなかったスパイクが、ついに出来上がりました。

(左から)ライトレボ旧モデル、ライトレボ新モデル、クッションレボプロ

一部ではミズノの熱男と言われているほどの熱血タイプの鈴木。暑苦しいくらいの思いと真摯に向き合う姿勢がなければ、実現しなかった商品です。怪我に泣いた野球人生だった鈴木だからこそ、その怪我を少しでも減らせるようにと思いを込めて企画し、とことんまでこだわって完成しました。

野球人の皆さんはぜひ部活や草野球で、クッションレボプロとともに一日でも長い野球人生を。そして野球ファンの皆さんは、試合を見ながらぜひ履いている選手探しでも。実際に試合で履いてくださっているプロ選手も、実はたくさんいます。そして、今日から始まる夏の甲子園にも…!それも一つの楽しみとして、注目してみてください。

一つのスパイクで一つの怪我を防ぎ、一つの野球人生を救えるよう思いを込めて。