ミズノ本気のグリップ開発「ガチグリ」シリーズ特集記事が 2021年ソフトテニスマガジン10月号(8月27日発売)に掲載!

ここまでやるの⁉
ミズノ本気のグリップ開発に迫る。

テニス選手がいつも手で触れるのがグリップ。だが、ラケットやストリングにこだわる選手は多くても、グリップテープに強い意見を持つ選手はそんなに多くない。
だからこそ、ミズノは本気でグリップテープ開発を行った。本気の“ガチ”に、滑りやすい環境でもガチっと止まる。ガチグリの誕生から、さらに進化するグリップテープ開発。
その最前線で奮闘する開発担当者・高市陽子氏に聞いた。

取材◎福田達
高市陽子 [ミズノ株式会社グローバルイクイップメントプロダクト部 用具開発課]

  • 2016年、グリップテープのテコ入れをすることになった。
    「今までにないものを」が出発点で、そのためにはそれまでのミズノ製品がどういうもので、市場でどういう立ち位置なのかなど詳細に調査する基礎研究から始めた。
    その過程で開発のきっかけになったのは滑らないグリップテープが欲しいという声だった。それではどういう時に滑るのか。汗をかいたとき、天候の悪いときなど、ラケットが飛んでしまうことがあると聞く。普段は気にせずスイングしていても、ラケットが抜けそうになるとグリップを短く持つこともある。これは効率が良くないのでは。本来のスイングできないのはストレスになるかもしれない。だから、その滑りを数値化して、測定の評価方法を考える。湿った状態のときと、乾いたときの両方を調べることも重要だった。
    「どのグリップテープも巻いた直後に握ったらある程度のグリップ性はあります。だから、湿ってきたときでも滑りにくいということをポイントにしたのが出発点でした」(高市氏)

    グリップは水をたくさん吸うと、スポンジが水を吸ったのと同じ状態になる。だから、握ると水が出てきて、滑りやすくなるものだ。そこで、あえて水を吸いにくい素材を選んだ。汗をかいてもある程度はじくようにしてみた。
    試作品が完成するとできるだけ多くの人に触って、感じてもらう必要がある。これに多くの時間を割いた。大会会場にも自ら足を運んでアンケートを取る。完成後にインパクトがあったのは、2019 年の夏の全国大会などで行った1万人体感キャンペーンや1年分あげちゃうキャンペーン。その結果、ツイッターなどで拡散、口コミが増え、一気に広まった。地道な数字が後に方向性を決めてくれる。ネガティブな意見も実はありがたい。その先の開発の参考になるからだ。


  • 船水雄太[AAS Management]

    「できるだけ手元の間隔が変わらないのが理想で、常にベストな状態を保ちたいものです。ガチグリを長く使用しているのはシンプルにいえば長持ちするからです。劣化すると滑ったり、すっぽ抜けたりすることもあります。また、時には破れることもあるのですが、ガチグリはその面で耐久性が優れています。自分にとって良い感覚が持続してくれます。夏場や雨の日はどうしてもグリップが濡れた状態になりますが、自分はキッチンペーパーで拭いています。その後のガチグリのグリップ感が好きですね」
    写真〇阿部卓功

  • 九島一馬[ミズノ]

    「正直、グリップテープに関して詳しく知らなかったのですが、ガチグリを試したときに、グリップ性の違いは感じました。自分は巻き替える頻度は決まっていなく、感覚的に少し違ってきたかなとか、消耗してきたなと思ったときに替えます。1万人キャンペーンや1年分あげちゃうキャンペーンはいい仕掛けでしたし、いろいろな方々に認知してもらう大きなきっかけになりました。」
    写真〇松村真行

ユーザーの声から生まれる、ミズノしか出せない機能性。

今年3月、評判のガチグリシリーズに滑りにくいプリントグリップ「ガチプリ」が加わった。
華やかな印象を与えるプリントタイプは一定の支持層はいるものの、プリント加工すればするほど手汗や雨などで濡れた時に滑りやすくなる傾向がみられる。だから、今回は塗料に注目して、濡れた状態でも滑りにくいプリントグリップを追求した。

結果的に完成したのは、自社の従来プリントグリップと比較して、濡れた状態で約1.8倍(乾いた状態で約1.3倍)のグリップ性が備わったプリントグリップである(ミズノ比較)。ガチグリウエットタイプにタック性(表面の粘着性)が備わったことで、ガチグリのグリップ性でも物足りないと感じるプレーヤーにおススメできることも分かった。まさに、これまでの常識を覆した開発だった。トップ選手が使用しても機能性を感じてもらえるはず。しかも、この成功はデザイン面でも新しいことが可能になるかもしれない。

そして、この夏、ガチグリシリーズ第3弾としてガチボスが登場する。
もちろん、ガチグリのグリップ性、吸いつき性をそのままに、柔らかさを取り入れ、指へのなじみやすさを追求したエンボス(型押し)タイプになる。これまでも型押しのタイプはよくあったが、今回は商品化に2年強を費やした。
「当初はさらにグリップ性を高めることを考えましたが、すでにガチグリが滑りにくく、逆に滑らなさすぎるという声もいただいていたので、そういった声に応える方向性も考えていかないと。頻繁にグリップチェンジをする選手にとって、ガチグリでは強すぎる、痛いという意見もありましたから」

従来の型押しのタイプと言えば、車のタイヤの表面の溝のようなギザギザをイメージしがちである。これをタイヤの溝とは違った規則的な型押しにしてみてはどうか。試作品を握ってもらうと、「手の平側にはね返ってくる」、「握り心地が良い」などと驚かれたと言う。

今回は型押しを六角形にしたことも大きかった。一定の方向のみを向いていると握り方によっては違った感触になるかもしれないが、いろいろな方向を向いている六角形の構造により、どんな握りでも指になじみやすく、同じようなフワッと感を与えることができた。



  • 滑りにくいをテーマに出発したプロジェクト。従来の製品を60とすれば、ガチグリで目指した滑りにくさは80以上、ガチグリウエットタイプが90、さらに80のベースにタック性を備えたプリントタイプが生まれ、ガチボスは80のベースにフワッと感を備えた。
    まだ終わりではない。この先もテニス選手に「こんな商品が欲しかった」と思ってもらえるような、気の利いた商品を生んでいきたい。そのためにも、試作段階では過去にとらわれず、行動に移す。水を吸ってもサラサラなおむつの素材はどうだろう。実現しなかったから失敗ではなく、次に進むための一歩だと考える。

    高市氏は学生時代、名門・高田商業(奈良県)でソフトテニスに打ち込んだ。日本一を目指すクラブは長くて、厳しい日々の連続だったが、そこで培った負けない気持ちや勝つための工夫などは今に生かされている。
    簡単には折れない人だから、選手たちに喜んでもらえる商品開発を実現しているのだろう。