SMOOTH SPEED ASSIST 誕生ストーリー Vol.02 厚底ブームという逆境をチャンスに

WAVE DUEL PROとWAVE DUEL PRO QTRが、ついに9月に発売となった。中足部が大きく膨らみ、踵部分が大胆にカットされた独特な形状を持つこのシューズには、ミズノの新機能“SMOOTH SPEED ASSIST” が搭載されている。この形状は、当シューズの開発者、梶原遥がシューズ作りに注ぎ込んだ情熱の形ともいえる。今回紹介するのは、SMOOTH SPEED ASSISTが誕生するまでのストーリー。出発点には“速く走りたい”という梶原の素直な思いがある。そして、そのヒントとなったのは、陸上スパイクだった。

中学から陸上を始めレーシングシューズの開発を志す。大学ではチームを立ち上げて、正月恒例の駅伝を目指した。また、学業ではシューズのミッドソール材のEVA素材の研究を行う。2016年に当社に入社。18年に現在所属するチームに配属となり、スムーズ スピード プロジェクトの一員としてSSAの開発に携わる。現在も週に120kmほど走っており、マラソンで2時間39分28秒のベストタイムを持つ。

厚底レーシングシューズがブームに。焦りを覚える⼀⽅で、チャンスと捉える

 WAVE DUEL PROの開発者、梶原がミズノに入社した年は、まさに厚底レーシングシューズが世に広まる前夜といっていい。
「私は“速く走れるシューズを作りたい”と思っていましたが、私のなかの“速い”の基準が、マラソンでいうと2時間5分台などと、リアルな速さだったんです。でも、厚底シューズが出回る以前に、薄底でも2時間切りをコンセプトとしたシューズが他社からは登場しており、自分の目標設定の低さを実感しました」
梶原は当時をこう振り返る。
そして間もなく、厚底レーシングシューズが世界のマラソンシーンを大きく変えることになる。
「私が表現したいこととは違うコンセプトでしたが、他社の厚底シューズは市場に大きなインパクトを与えました。また、陸上競技の常識を変えてしまうような商品でもありました。純粋にシューズが好きで、スポーツメーカーに所属しておきながら、“先にやられた”という悔しい気持ちになりましたね」

 ライバル企業の動向に焦燥感を覚える一方で、梶原は市場の変化を前向きにも捉えていた。梶原が作ろうとしていたシューズもソールの厚みが特徴的だ。“世界的にレーシングシューズは、ソールが薄くなくてもいい”という風潮になったことは、上層部を納得させるための好材料にもなる。さらに、梶原がコンセプトの1つに掲げていたフォアフットやミッドフット接地についても、これまでは“ケニア人エチオピア人の走り方”という考えが根強かったが、日本人でもそういった走り方ができることが理解されるようになっていった。
「市場が厚底に向かってくれたので、これはすごいチャンスが巡ってきたなと思いました」

 梶原の読み通り、社内で上がっていた“ソールをもっと薄く”という意見が、“厚くても構わない”という声に変わっていった。

WAVE DUEL PRO QTR ソール

“やっと出番が回ってきた” 新プロジェクトの一員になる

 そして、入社から2年がたち、念願が叶ってレーシングシューズの開発に携わるようになった。
商品開発の部署に異動となり、梶原は1足のシューズを大先輩から受け取った。
「俺が魂を込めて作ったシューズだから参考にしてくれ」
そんな言葉と共に梶原が受け取ったのが、短距離スパイクのクロノインクスである。このシューズこそが、梶原が作っていた試作シューズに多大なヒントを与えた1足だった。そして、ミズノ社内で“SMOOTH SPEED PROJECT”というスピードランニングに関するプロジェクトが始まると、梶原はその一員に選ばれた。
「やっと出番が回ってきたな、って思いましたね。このプロジェクトには、間違いなく自分のアイディアが最適だっていう自信がありました」

 他社の厚底レーシングシューズと一線を画すのは、その形状にある。同じ厚底でも、他メーカーが反発性とクッショニングを重視しているのに対し、梶原が考えたシューズが厚底なのは、“ランニングの効率性”と“負担を軽減すること”という相反する要素を両立させた結果からだった。

WAVE DUEL PRO QTR
WAVE DUEL PRO QTR

自らも何度もテストを繰り返し、ついに完成したSSA搭載シューズ

 もちろん多くのアスリートの声に耳を傾けて開発を進めているが、梶原自身も、何度も試し履きを行った。
「自分が体感して良いものを提供したいという気持ちがあります。レースに出るたびにアイデアや反省点があると、次に出社した時に、シューズを削ったり足したりを繰り返していました。“自分が速く走れるようになること”と“速く走れるシューズを作ること”はイコールだと思っています。常に“速く走るにはどうしたらよいか”を考えて、開発を行っています」
こうして梶原の思いとアイデアが詰まったWAVE DUEL PROとWAVE DUEL PRO QTRが世に送り出された。
「今回発売になった2モデルは、私が大事にしていた感覚を100%表現したシューズになっています。疲れてきてフォームが崩れたり、足が前に進めなくなってきたりした時に、この独自の形状が支えになってくれるはずです。レース後半の心の支えになってくれたら」

 WAVE DUEL PROとWAVE DUEL PRO QTRには、SSAの起案者である梶原のこんな思いが込められている。

梶原遥さん