WAVE DUEL PROとWAVE DUEL PRO QTRが、ついに9月に発売となった。中足部が大きく膨らみ、踵部分が大胆にカットされた独特な形状を持つこのシューズには、ミズノの新機能“SMOOTH SPEED ASSIST” が搭載されている。この形状は、当シューズの開発者、梶原遥がシューズ作りに注ぎ込んだ情熱の形ともいえる。今回紹介するのは、SMOOTH SPEED ASSISTが誕生するまでのストーリー。出発点には“速く走りたい”という梶原の素直な思いがある。そして、そのヒントとなったのは、陸上スパイクだった。

　SSAの開発者・梶原は、中学から陸上競技部を始め、大学時代には駅伝チームを立ち上げて、正月恒例の駅伝を目指したアスリートだ。現在もなお走り続けている。
「競技に取り組む過程で、自分に合うシューズは何だろうと考えるようになりました。速く走りたいという気持ちとともに、自分でシューズを作りたいという気持ちが強くなりました」

　そんな思いを引っ提げミズノに入社。最初に配属された部署では、商品の生産管理をしたり、新しく開発されたシューズを製品化するために作り込んだりと、生産の現場が梶原の持ち場だった。
「誕生したばかりの“1”というアイディアを商品として“10”に仕上げていく部署なので、その“10”をものすごく価値のあるものにもできるんです。開発をするために必要な創意工夫する力、アイディアを実現させる力につながっているのかなと思っています」
当時の経験は、現在の開発の礎となったと話す。

　梶原のランニングシューズに対する熱量は、尋常ではなかった。生産管理の業務をこなすかたわら、空き時間などを利用しレーシングシューズの研究開発を独自で行っていたのだ。
「弊社の地下にある工房で好きにシューズの研究をし、靴作りを学ぶ名目で試行錯誤していました」

　約2年の間に、靴作りを学びながら、10モデル以上もの試作品を作った。

　ソールやアッパーのパーツを切ったり貼ったりしながら試作を重ね、自ら試し履きをしたり、同僚らに意見を求めたりした。

　競技者としての一面をもつ梶原は、足部の縦アーチと地面とがピタッとはまる感覚を大事にしており、その感覚を得られるシューズこそが梶原が“良い”と思うシューズだった。シューズ作りに携わるようになってからもその接地感を重要視しており、自身が作るレーシングシューズにも求めた。

　そして試行錯誤の末、ようやく納得のできるシューズにたどり着いた。

　“手作業感満載なんですけど…”と梶原が見せてくれたのが、中距離用スパイクのジオストリークをベースに、様々なパーツが切り貼りされている。

　ヒントは、ミズノが代々守り続けていたスパイクの設計・構造にあった。短距離スパイクの母指球の少し後ろに“台座”とか“支え台”と呼ばれる部位があり、そこで接地する感覚は、まさに梶原が追い求めていたものだった。

　梶原の試作品は、現在発売中のWAVE DUEL PROほどではないものの、ミッドソール部がやや厚めになっているのが特徴だ。この特徴的な構造こそが、まさにミズノの新機能“SMOOTH SPEED ASSIST”の原型になった。

　しかし、梶原の発想に、時代がまだ追い付いていなかった。
「私としては、ソールをもうちょっと厚めにしたかったんですけど…」
梶原はこう振り返る。社内では“ソールが厚い”と言われ、実際に足を入れたランナーからは“もう少し薄ければ履いてみたい”というフィードバックがあった。

　だが、「これ以上薄くしてしまうと、自分が欲しい感覚が得られなくなってしまう。」というジレンマに陥った。梶原自身が考える理想のシューズまであと一歩のところまで来ているのは確か。しかし、そこからがなかなか先に進めなかった。

　ちょうどその頃、長距離用レーシングシューズの市場に厚底シューズが登場。そして、その時、潮目が変わろうとしていた。