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2024年に選手たちが着用するミズノ製ウエアに展開される「MUGEN GRAPHIC」。
このグラフィックデザインは、ミズノアパレルデザインチームと
グラフィックデザイナーである小林一毅氏の協業により生まれました。
今回は、「MUGEN GRAPHIC」が誕生するまでの開発秘話を
小林氏とミズノで競技スポーツウエアデザインを担当する富村真司に話を聞きました。

「対の動き」が マテリアルのモチーフに

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今回の協業のきっかけを教えてください。

富村:
2024年のグローバルアパレルコレクションのコンセプト「MUGEN CONCEPT」ができてきたタイミングで、デザインチーム内でもグラフィックの案をいくつか用意していました。その過程でデザインに「日本の美しさ」を加えるというアイデアが出たんです。それも、単なるデザインの一部としてではなく、あくまでアーティスティックなエッセンスとして「和」を取り入れようと。ならば、日本的な美しさや様式美をユニークなアウトプットで表現できる人に加わってもらうのが良いんじゃないかということで、小林さんに声を掛けさせていただきました。どうしてもお願いしたくて、いきなり連絡させてもらいました(笑)。
小林:
突然連絡が来たときは驚きましたね。でも、出身高校は様々な競技がハイレベルな強豪校だったので競技的・文化的な側面でスポーツが身近にありました。私がデザイナーを志して美術大学に進学したのも「いつかスポーツチームのユニフォームをデザインしたい」という思いからだったので、高校生当時に目標としていた仕事として話をいただいたときはとても嬉しかったです。しかも、いきなりクラブチームのユニフォームじゃなくて日本代表のユニフォームとは…

依頼の連絡が来たときはどんな気持ちでしたか。

小林:
大きすぎるぐらいの責任が伴う仕事だということを即座に理解できた分、即答できなくて。少し冷静になってから頭の中を整理し、協業させていただく旨をお返事しました。
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グラフィック制作はどのように進んだのでしょうか。

富村:
最初にお会いしたときに「MUGEN CONCEPT」の資料や社内で考えた原案を見てもらい、いろいろと話をさせてもらいました。そこからアイデアをどんどん出していただきました。
小林:
全体のコンセプトやカラーコンセプトも決まっていたので、それをグラフィックでどうつないでいくかを対話しながらアプローチしていきました。ユニフォームのデザインをするには、構成の核となるマテリアルが必要になります。そしてマテリアルにどのようなストーリーを込めるかを議論する中で、「静かなる力」「躍動する技」「しなやかな強さ」という3つの表現が生まれてきました。この3つの表現を考えることとデザインに展開していくためのマスターデータともいえる案を作る作業にかなりの時間を割きました。

最初から役割分担を決めていたのでしょうか。

小林:
企業にはそれぞれの文化があるので「ミズノらしさ」には私は触れないで求められている表現活動に集中して、らしさについてはミズノさんのデザイナーの方々を信頼してお任せした方がよいと考えました。そして私がデザインのマテリアルになるようなグラフィックを複数用意して、そのマテリアルをミズノさんのデザイナーが組み合わせてユニフォームに展開する、という進め方になりました。
富村:
最初の「エッセンスを取り入れたい」という思いは、まさにそんな進め方をイメージしていました。
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役割分担はスムーズに決まりましたか。

小林:
私の表現は複雑なレイヤーを設けずにデザインすることが多いので、トーンを変えながら複雑に階層化して魅力的に見せる技術は私自身が持ち合わせていませんでした。だから階層化を伴う部分は、最初から純粋なコラボレーションとしてお任せしようと思っていました。

マテリアルを作り込む中で意識したことは何ですか。

小林:
競技の中には静的なものもあれば、動的で激しいコンタクトスポーツもあり、その両方をカバーする必要がありました。そこでマテリアルの表現も動きが穏やかなものと激しいもの、繊細なものと力強いものといった具合に、対の形で用意して組み合わせるようにしました。各マテリアルは、特定の競技を意識するのではなくスポーツ全体に共通する動きに焦点を当てるイメージで作っています。

自信や誇り、強さの象徴として ふさわしいデザインに

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今回の「MUGEN GRAPHIC」の制作において最も大変だったのはどんなところでしょうか。

小林:
普段の仕事ではフィニッシュワークまで担当するのですが、今回はマテリアルのみでユニフォームへの落とし込みはお任せする形でしたので、どのようにマテリアルが使われても成立するように素材を準備するのが難しかったです。あまり使い方を固定しすぎるとミズノさんのユニフォームデザインとしてのクリエイティブの幅を狭めてしまいますし、せっかくのコラボレーションなので自分の想定を超える表現を期待する気持ちもあり、「少しだけ余白を残す」のが難しかったですね。「あえて作り込まない」は、普段の仕事ではしないことなので。
富村:
各競技ルールに沿った形で落とし込んでいく部分では、デザインの奥行きやグラデーションを用いながら、ユニフォームデザインとしてふさわしい形でコンセプトの根幹である「アスリートの無限の可能性」を表現しました。

今回の協業で、お互いに相手から得た刺激はどんなものですか。

富村:
一番はプロセスのあり方でしょうか。小林さんは我々とはまた違うプロセスの組み方を大切にしていて、私たちとはまた別の視点から美しさを求めている点など、すべてが刺激的でしたね。
小林:
私自身、最近は時代に消費されずに長く耐用できるものを目指すという点で、普遍性のあるデザインを求めるようになりました。視覚的に必要最低限の定着に行き着くことが多いからか、ユニフォームデザインのデコラティブな表現は、誰かと一緒じゃないと作れなかったと思いますし、その装飾化の過程を拝見するのは刺激的でした。また、コラボレーションの過程でスポーツ特有の表現に的確化していくにつれてユニフォームとしても平面表現としても美しくまとまりが出てきたように思います。ひとりだったらもっとシンプルなデザインになっていたところ、今回の答えはそうではなかったと仕上がりを見て改めて思いました。
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着用する選手や人に感じてほしいことがあれば教えください。

富村:
ユニフォームというとビジュアルや機能に目がいきがちですが、選手にとっては自信や誇りにつながるアイテムだと考えています。さらには子どもたちにすれば「あのユニフォームを着たい」という夢の対象になることもあると思います。そうした自信や誇り、憧れや夢の対象としてふさわしいものでありたいという思いで作っています。その気持ちが届くと嬉しいです。
小林:
選手がユニフォームをどのぐらい意識して着用するのかはわかりませんが、選手にとって視覚的に気がかりにならないデザインを、というのは意識しました。あとはただただ選手団の皆さんに良い時間を過ごしてほしいと思っています。
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グラフィックデザイナー 小林 一毅氏(写真左)とアパレルデザイン担当 富村 真司(写真右)