限界の向こう側にある唯一無二の時間を求めて

世界で最も過酷とされるマラソン競技、それがアドベンチャーマラソンです。過酷な大自然を舞台に、長いと約1カ月前後にわたって命がけでレースを行います。北田雄夫選手は、2017年には世界7大陸のアドベンチャーマラソンを日本人で初めて走破するなど、これまでに18もの世界最高峰のアドベンチャーマラソンを完走しています。そんな北田選手にアドベンチャーマラソンに対する「CrazyLove」な話をうかがいました。

生きてゴールするために「死」の淵を知る

北田

アドベンチャーマラソンの魅力はなんでしょうか?

最大の魅力は、最も人間の限界に挑戦できるスポーツだということ。非常に過酷な自然環境下で、人間の肉体や精神の限界に挑みつつ、己の身体ひとつでゴールをめざす究極の自己チャレンジがアドベンチャーマラソンなのだと思います。

競技に向き合う中で、想像を絶する辛さや厳しさを感じると思います。それでも競技を継続する原動力は何ですか?

例えば、ゴール直前は自分の力を出し切って走れない状態になってしまいます。それでも一歩を踏み出してゴールをめざすのがアドベンチャーマラソン。そうやってゴールすると、『自分はもうちょっとできたんじゃないか。次のレースで今の限界を超えられるんじゃないか、自分は一体どこまで行けるんだろう』という自分への好奇心が湧いてくるんですよ。次のレースへの挑戦を始める原動力は、この好奇心ですね。もちろん初めての距離や環境の中で走るレースは、毎回未知の自分に出会えるというワクワク感もあります。

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競技人生の中で、最も心が揺さぶられた瞬間を教えてください。

きっと多くの人が「ゴールの瞬間」と思うでしょうが、実際はそこじゃないんですよ…だって、ゴールしたら終わりですから(笑)。ゴール直前のゴールテープが見えてきたぐらいの頃かなぁ。競技なので早くゴールしたいという気持ちや達成感を感じつつも、この時にしか感じられない『幸福感のようなもの』に包まれる瞬間があるんです。うまく言葉にできませんが、「嬉しい」とか「楽しい」といった日常にある幸福感とはまったくの別物で…。あのゴール直前の何かに包まれるような感覚には毎回魂を揺さぶられていますね。

北田

誰かの心を揺さぶれたら、それが最高のモチベーション

アドベンチャーマラソンへのCRAZY LOVEなエピソードを教えてください。

私の場合、レースそのものが常に「死」と隣り合わせなので、準備もまた常に「死」と隣り合わせになります。例えば、サハラ砂漠を1200km走るレースの前は、気温38度の昼間に毎日10時間ランニングして、意図的に熱中症になる、というのを6日間続けました。自分がどんな状態になったら意識や感覚を失ってしまうのか、さらには死ぬのかをイメージできないと、レース本番で本当に死んでしまいますから。「やれることを全部する」。それが不安や恐怖に負けそうになる自分を奮い立たせる唯一の方法だと思います。

人々がスポーツに魅了されるのはなぜだと思いますか?

「強いものに惹かれる」って、動物の本能のひとつですよね。動物のように筋肉を躍動させ、身体を使って表現するスポーツこそ「現代的な動物活動」の最たるものだと思います。強さや速さ、そして美しさを懸命に肉体で表現する姿が、人々を魅了するんじゃないでしょうか。 また、応援してくれる皆さんの言葉を聞いたり見たりして、アドベンチャーマラソンを走るという表現が、誰かの心を揺さぶっていると実感できた時は純粋に幸せです。シンプルに嬉しいですし、競技を続けるという意味では最大のモチベーションになっています。