飯塚翔太:写真

200mで20秒11の日本歴代3位の記録を持ち、2016年のリオでは男子4×100mリレーで日本チームのメンバーとして銀メダルを獲得した飯塚翔太選手。トップレベルで活躍を続け、2012年ロンドン、2016年リオ、そして3度目の出場となる2021年の東京には200mで出場しました。そんな飯塚選手に陸上短距離走に対する「CRAZY LOVE」な話をうかがいました。

より速く走るために「自分だけの正解」を探求し続ける

飯塚翔太:写真

短距離走の魅力はなんでしょうか?

みんな走り方が違って、正解のランニングフォームが存在しないところですね。世界トップレベルの決勝レースを見ても、全員がそれぞれ違うフォームで走っています。これは「自分の正解は自分で見つけないといけない」ということ。だから練習方法もみんなそれぞれです。短距離走の選手は、練習方法も含めて何をやるにも自分で正解を見つけるという作業をやらなきゃいけなくて、これが大変だけどめちゃくちゃ楽しいし、好きなんですよね(笑)

競技に向き合う中で、想像を絶する辛さや厳しさを感じると思います。それでも競技を継続する原動力は何ですか?

当然、正解を見つけようとしても上手くいくことの方が少ないです。でもその都度、今うまくいかなかったのは「成功」か「学び」かのいずれかだと判断するようにしています。絶対に「失敗」とは判断しません。初めてやってうまくいかなかったことでも、そこにどんな「学び」があったかを探し続けます。どんな結果も「良かった」とか「プラスになった」と考える「プラス思考の探究心」が原動力になっていると思います。
例えば、足の回転を速くするためにこういう練習したけど変わらなかった。その結果から、この練習は足の回転を速くすることには直接影響がないことがわかった、という感じですね。たとえ思うような結果にならいとしても、常に前進しているという意識を自分に持たせ続けるようにしています。

飯塚翔太:写真

競技人生の中で、最も心が揺さぶられた瞬間を教えてください。

自己ベストが出た時よりも、やっぱり自分の結果が誰かの心を揺さぶった時ですよね。例えば、世界の大舞台でメダルを取って地元での報告会にうかがった時のことです。おばあちゃんから「寿命が延びたよ」って言われたんですよ。そういう時に僕自身の心が揺さぶられます。もちろん自己ベスト更新も嬉しいですよ。でも、それ以上に、その記録が誰かの心を揺さぶったことを実感できた時の方が、自分のパフォーマンスを褒めてあげたくなりますし、自分自身のモチベーションも上がりますね。

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6,000本の動画が「自分だけの正解」への道しるべ

短距離走へのCRAZY LOVEなエピソードがあればぜひ教えてください。

やっぱり走りの動画集じゃないですかね。自分の練習時の走りをめっちゃ見るんですよ。スマートフォンの中には、自分の走りの動画がだいたい6,000本ぐらい入ってるんじゃないかな。スマートフォンを変えた時からだから、2017年以降に走った動画は全部入ってますね。5年で6,000本か…自分でもCRAZYだと思いますね(笑)

どんな時にどのくらい見ているんですか?

毎日2時間ぐらいは見てますね。練習中は、走るたびに見て確認しながら練習するんですが、寝る前と風呂に入っている時はずっと自分の走りの動画を見てますね。見るタイミングを変えて同じ動画を見ると全然違って見えるし、それが次につながるヒントになることもあります。だから過去の動画を何度も見返すこともあります。

人々がスポーツに魅了されるのはなぜだと思いますか?

結果とかすごい記録というよりも、レース中に本気で戦ったり、レース後にライバル同士が称えあったり、勝っても負けても最後は肩を組んで仲良くなったり、そんな人と人のつながりを感じるからじゃないですか。僕自身もその瞬間がスポーツで一番感動する瞬間だと思うので。同じ試合やゲームを見たお客さん同士もつながりますよね。僕たち選手も同じ組で走った選手と仲良くなること、やっぱり多いんですよ。同じ戦いの時間を共有した戦友みたいな感覚で。それでまた次のレースで会うと声を掛け合うようになったりする。そうやってどんどん未来につながっていくんですよね。

撮影場所:イノベーションセンター MIZUNO ENGINE