CRAZY LOVE玉井選手

最大10メートルもの高さがある飛び込み台から飛び出し、着水までの動作や技術、美しさを競う競技、飛込。飛込の玉井陸斗選手(JSS宝塚/須磨学園)は、2022年に開催された日本選手権高飛込で優勝、さらに世界選手権高飛込でも準優勝の成績を収めました。高校生ながらすでに日本のトップとして活躍する玉井選手に、飛込競技の「CRAZY LOVE」な話をうかがいました。

ケガの恐怖と闘いながら新しい技を自分のものに

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飛込の魅力はなんでしょうか?

飛込は難しい技を正確に演技し、水しぶきを立てずに静かに入水すると高得点につながります。日本選手権や世界選手権に出場する選手の映像を見ると、なんとなく簡単そうに見えませんか?(笑)。でも、実際に自分でやってみるとめちゃくちゃ難しいんです。そんな難しい技をひとつずつ自分のものにしていくところが、今の自分にとっての飛込の魅力ですね。

なぜ競泳じゃなくて飛込を選んだのですか?

3歳の時、両親が「泳げるように」と、兄と一緒に水泳教室に通わせてくれたんです。もちろん水泳の方で(笑)。すると競泳用プールの横に飛込用プールがあって、最初は遊び感覚で飛込の体験教室に参加しました。記憶が定かじゃないんですが、たぶん面白そうだったんでしょうね。実際に体験してみると、教室の飛込プールは3メートルの高さしかないせいもあって、怖いながらも楽しくて。その後、自分から「飛込をやりたい」と両親に言って育成コースに進み、そのままずっと飛込の世界に(笑)

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高飛込は10mから飛び込みますが、さすがにもう恐怖心はないですか?

飛ぶこと自体はそこまで怖くないけど、ケガに対する恐怖心はむしろ大きくなっています。飛込って入水直前は時速50キロメートルの速度が出ると言われていて、膝や手首、肩などの関節部分に大きな負荷が掛かります。入水時の衝撃に負けて手が頭に当たり骨折する人もいるぐらいなんですよ。

競技に向き合う中で、想像を絶する辛さや厳しさを感じると思います。それでも競技を継続する原動力は何ですか?

小学5年生の時に、大人がやるような技を初めて成功させた時、何となく自分に自信が持てたんです。それ以降、「自分の実力を試合で発揮して優勝したい」とか「自分の技をより多くの人に見てもらいたい」という気持ちが厳しい練習を乗り越える力になっています。

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観客の、家族の、そして地元の人々の歓声に心が揺さぶられた

競技人生の中で、最も心が揺さぶられた瞬間を教えてください。

やはり初めて日本室内選手権飛込競技大会で優勝した時ですね。まだ12歳だったんですが、実は周囲も自分も優勝なんて頭の片隅にもなくて、入賞できたら…ぐらいの雰囲気だったんです。史上最年少での優勝だったんですが、会場にいた観客の皆さんの歓声も凄かったですし、その後の両親や地元の皆さんの喜びようが凄くて(笑)。あの時は自分も想定してなかったというのもあり、かなり心が揺さぶられましたね。

人々がスポーツに魅了されるのはなぜだと思いますか?

一番は、選手たちが全力で頑張る姿ですよね。そこに試合の勝ち負けだけじゃなく、そこまでの努力とか苦労とか一度どん底に落ちてからの復活とか、心に残るストーリーも加わって人の心を魅了するんじゃないかな、と。僕自身、羽生結弦選手の「報われない努力もあるんだな」という言葉を聞いた時、ものすごく共感したというか、羽生選手と自分が重なったというか…。どれだけ努力して練習してもうまくいかない時、勝てない時ってあるんですよ。あの羽生選手ですらそんな気持ちになるんだと知って、凄く親しみを感じたというか、その思いに共感できて距離が近づいた気がしました。

飛込への愛が感じられるエピソードがあればぜひ教えてください。

板飛込って、飛び出すまでの助走で、自分なりのステップを踏むんです。普通に街で歩いている時に何となく助走のステップを踏んじゃう(笑)。ホント自然に出ちゃうんですよ。あと、道端に引かれている線を見ると、踏み切り板の先端に見えます。つい踵だけを線から出して浮かせて、つま先立ちしてしまうんです(笑)

これからも玉井選手にとって飛込が「CRAZY LOVE」な存在であり続けるためにどうしていきたいですか。

とにかく「楽しむ」ことですね。「しんどい」と思ったら続けられないから。好きか嫌いかよりもまず「楽しい」をめざして、それが「好き」につながっていけばいいかなって。そして、その「楽しい」気持ちを持ち続けるために、常に新しいことに挑戦し続けたいですね。