ディーン元気:写真

2022年の日本選手権で10年ぶりの優勝を果たしたやり投げのディーン元気選手。2012年には日本歴代2位(当時)となる84m28を記録して出場権を得たロンドンで決勝進出を勝ち取るも、以降は世界大会の代表を逃していた。10年の時を経て復活の狼煙を上げたディーン選手に、やり投げに対する「CRAZY LOVE」な話をうかがいました。

投てき競技で世界と戦うためにやり投げを選択

ディーン元気:写真

やり投げの魅力はなんでしょうか?

見る人にとっての一番の魅力はやっぱり飛距離ですよね。遠くに投げる上では肩の強さがフォーカスされがちですが、やり投げって走ってきて全力で急停止して投げるんです。あの動き、結構クレージーなんですよ。急停止した時に、軸足にはものすごい衝撃というか力がかかります。しかも走るスピードが速ければ速いほどやりは飛ぶと言われていますが、人間は走るスピードが速すぎると急停止できずに、走るスピードがやりに伝わりません。丁度良いスピードで走ってきて、ある瞬間に思いっきり軸足に掛かるスピードをやりに伝えていく。ダイナミックに見えるけど、実は繊細な動きとタイミングが必要なんですよ。このあたりがプレーする側にとってのやり投げの魅力かな、と思っています。

なぜ投てき競技の中でやり投げを選んだんですか?

投てき種目は、高校生になると円盤と砲丸、ハンマー、そしてやりの4種目の中からどれかを選ぶことになります。僕は身体は比較的大きいけれど線が細かった。そんな体格を考慮すると、走る動作が必要なやり投げが一番世界と戦えるんじゃないか、と考えてやり投げを選びました。砲丸投げとか円盤投げの選手って、テレビで見ても自分よりゴツいでしょ(笑)

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競技に向き合う中で、想像を絶する辛さや厳しさを感じると思います。それでも競技を継続する原動力は何ですか?

僕自身、競技人生の早い段階でロンドンに出場して決勝に進出できました。この瞬間、人生におけるひとつの夢が叶った。ただ、その後は怪我で何度か大会も欠場しました。ケガや休養に踏みきった当時に「もうちょっと頑張ろう」と思えた原動力は、自分の中で燃えるものだけじゃなく、周囲の人の応援だったんですよね。でもあまりにも頑張りすぎるとケガをしちゃうので、熱くかつ冷静に頑張る、というのかな。また、ケガをしている時に、活躍できている時と同じぐらいの熱量で応援してくれる人がいて、それがとても力になりました。

競技人生の中で、最も心が揺さぶられた瞬間を教えてください。

やっぱり2022年に10年ぶりに日本選手権で優勝した時でしょうか。自信をもって挑みましたが10年ぶりに優勝がかかった日本選手権は緊張するかも、と思っていました。でも実際にフィールドに立ってみると「やってきたことを出せば勝てる」というイメージができていたので平常心で投げられた。心が揺さぶられると同時に自信の大切さを学びました。

ディーン元気:写真

言葉を超えて通じ合うのがスポーツの醍醐味

やり投げへのCRAZY LOVEなエピソードがあればぜひ教えてください。

誰よりもやりを遠くに投げることを考えて練習している自負はあります。動画もよく見ますよ。今年投げた80mのフォームをおととし投げた80mのものと見比べたり、それこそ10年前のオリンピックの時の動画もスマートフォンに入れていて、たまに見たりします。あと、試合で使うやりと一緒に寝たことがありますよ。より遠くに飛んで欲しいという想いを伝えたくて。これはあんまり人に言ったことないけど(笑)

人々がスポーツに魅了されるのはなぜだと思いますか?

ルールの範囲の中で、人が持てる力を全力で発揮して競いあうってところだと思います。あと、言葉がなくても国を越えて、あるいは国を代表して競い合うというのも大きいかもしれないですね。同じフィールドで競い合っていると、言葉を超えて相通じる部分がありますから。きっと競技する側も見ている側もスポーツそのものが共通言語なんでしょうね。

撮影場所:イノベーションセンター MIZUNO ENGINE