精密さを突き詰める クレー射撃競技のルールと魅力

クレー射撃とは、散弾銃を使用し、空中に放たれるクレーと呼ばれる直径 11cm の陶器でできた標的を狙い、撃ち落とした数によって得点を競う競技で、夏の世界大会では「トラップ」と「スキート」の2種目があります。「トラップ」は18世紀のイギリスが発祥で、当時は飛んでいる鳥を撃ち落とす競技でした。捕らえた鳥をカゴから逃がし、飛び立つところを狙い撃つことから「トラップ」とされています。しかし時代の流れにより、19世紀後半には現在のクレーを標的とする競技へと変化していきました。「スキート」は20世紀の初めに、猟の練習用にアメリカで考案されました。練習用ということもあり、競技には当時からクレー標的が使われています。また、「スキート」とは古いスカンジナビア語で「撃つ」という意味です。

クレー射撃

次に、夏の国際大会の種目である「トラップ」と「スキート」のルールを解説します。

トラップ

「トラップ」は、射台(射手が撃つ場所)の15m先から飛び出すクレー(皿)を撃つ種目です。射手は銃を構えた状態でコール(掛け声のこと)し、その声に機械が反応して、クレーが飛び出します。クレーは左右、高さがランダムに飛び出します。射手は、1ラウンドにつき25枚(5カ所の射台×クレー1枚×5周)のクレーを射撃し、1枚のクレーに対し2発以内で撃ち落とすことができれば、得点となります。

トラップ

スキート

「スキート」は、2箇所の装置から1枚ないし2枚同時に射出されるクレーを撃つ種目です。8箇所の射台を移動しながら合計で1ラウンド25回射撃し、トラップとは異なり、1枚のクレーに対し1発しか撃てません。クレーは射手のコール後、3秒の間いつ飛び出すかわかりません。クレーの飛び方は3種類あります(左、右、左右同時)。

スキート

また、2020年大会はトラップ種目の男女混合の団体戦「トラップ・ミックス」が追加されましたが、2024年大会では「トラップ・ミックス」にかわり、スキート種目の男女混合の団体戦「スキート・ミックス」が追加されます。

選手が実際に使用する用具

選手が実際に使用する用具

散弾銃

クレー射撃の種目によって使用する銃も異なりますが、危険を伴うため実際に競技で使用するまでにはさまざまなステップを踏まなければなりません。価格は安いもので20~30万円ほどです。
※銃の所持や、クレー射撃を始めるためのステップはこちら

シューティングベスト

競技中は射撃用に作られたベストの着用が義務付けられています。銃の発射時は、反動を抑えるため銃を肩に押し当てていますが、それをサポートするためにベストの生地が種目ごとにカスタマイズされています。

サングラス

顔と銃の距離が近いため、安全上の理由で、サングラスの装着は義務となっています。また、個人の色の見え方や天候、背景などを加味してその時々でベストな色を選ぶため、さまざまな色のレンズが用意されています。

イヤーマフ

銃の発砲音はとても大きいため、射手の耳を守るために使用します。

装弾

鉛の弾を飛ばすための火薬が入っており、取り扱いには注意が必要です。安全性を保つため自分が購入したものしか使用することはできません。

クレー

直径11cmの円盤状の陶器です。耐久性はそれほど高くないため、一度打ち出したクレーをそのまま再利用はできません。しかし、最近では環境に配慮したバイオマス素材のクレーも普及してきています。

クレー

シューズ

実はクレー射撃にシューズに対する規定は特にありません。クレー射撃専用シューズも存在しますが、選手の好みによってバラバラです。

シューズ

今回の取材にご協力してくださった、トラップ種目日本代表の大山重隆選手と、そのパーソナルコーチを務める中山由起枝さんに特別インタビューを行いました。

トラップ男子日本代表の大山選手

トラップ男子日本代表の大山選手

Q:クレー射撃競技の魅力を教えてください。

A:日本では普段関わりの少ない銃を扱うということで、当然免許が必要になります。取得には早くても4カ月から半年ほどかかり、クレー射撃の免許は狭き門となっています。そういった背景もあって、このクレー射撃では本物の銃を使った際の音や体に伝わる衝撃を感じられる部分は魅力的だと思います。また、集中力が重要なので競技で良い点数が出たときも派手に喜ばず、いつも心の中でガッツポーズしています(笑)。観客としてみるときは、選手の所作に注目してみてください。準備完了を伝えるために発声する「コール」という動作が一射ずつあるんですが、人によっていろんな声の出し方があります。

トラップ男子日本代表の大山選手

Q:競技を始めたキッカケを教えてください。

A:競技を始める前は、狩猟を目的に銃の免許を取りました。そして、その練習目的で21歳の時にクレー射撃の免許を取って射撃場に通っていたんですが、そこでクレーの楽しさに気付いたのがキッカケです。父も銃を扱っていたので、そういった周囲の助けもあって競技者として続けてこられました。クレーは生涯スポーツで、誰でも始められるスポーツなので皆さんにもぜひ楽しんで欲しいです。もちろん、初心者は特に銃の扱いなど安全面には十分注意してくださいね。

Q:24年に向けて意気込みを教えてください。

A:今年は4年に1度の大会がありますが、まだ出場を勝ち取れていません。そこに出られるよう4月のカタール予選に向けて準備していきますので、ぜひ皆さん応援してください。

大山選手のパーソナルコーチを務める中山さん

大山選手のパーソナルコーチを務める中山さん

Q:2024年の大山選手の見どころを教えてください。

A:今年は4年に1度の大きな大会がありますが、大山選手は20年の競技歴で東京大会の出場が初めてでした。その舞台を肌で感じて、今度はホスト国の選手としてではなく、自力で出場を勝ち取りたいという強い思いを持っています。彼はすごく器用な選手で、普段は右撃ちですが、左で撃てといわれてもできてしまうくらいです。その日その日のさまざまなコンディションに自分で合わせてパフォーマンスを出せるんですが、逆にいうと合わせられてしまう。なので、いろいろな要因に邪魔されない自分のスタイルを確立させることに取り組んでいます。世界で戦うには5ラウンドのうち3回は満点を出す必要がありますが、いつでもどこでもそのパフォーマンスを出せるメンタルが備わりつつあると思います。大山選手の、勝負師としての集大成をぜひ皆さんに見てもらいたいです!

皆さんクレー射撃への興味は深まったでしょうか?実は大山選手と中山コーチはご夫婦で活動されています。中山コーチは現役時代に国際大会を数多く経験し、現在は子育ても両立しつつ大山選手の活動をいろいろな角度からサポートしているそうです。そんなお二人と、クレー射撃日本代表を一緒に応援しましょう!