体操大国・ニッポンを支えるセノーのものづくりとは?

皆さんは「肋木」という体育器具をご存知でしょうか。小学校の頃を思い出すと、体育館にあった、アレです!これは、学校教育というものが教練、つまり、戦いための訓練として行われていた戦前の時代から、セノー株式会社(以下、セノー)が作っていた体育器具なんです。
セノーは1908年に創業した体育器具メーカーで、2012年にミズノグループの一員となりました。体操やバスケットボール、バレーボールなど競技スポーツの器具をはじめ、跳び箱やマットなどの体育施設器具、トレーニング器具などを製造しています。5種(体操・バレーボール・バスケットボール・バドミントン・パラバレー)の競技で国際競技連盟の認定を取得しており、国際大会をはじめとするさまざまな大会やイベントで使用される器具を作り続けています。私たちが学生時代に体育の授業や部活などで使用していた器具も、実はセノー製だった、ということも少なくありません。

過去の肋木画像

過去の肋木画像 ※撮影時期は不明

創業当初は農機具を扱う個人商店だったセノーが体育器具を扱うようになるには、意外なきっかけがありました。日露戦争に従軍した創業者の勢能力蔵(せのう・りきぞう)がロシア人との体格差を痛感し、「日本人はもっと身体を鍛えなければいけない」という危機感から運動器具を作り始めたそうです。
「創業者は、日本の学校体育の基礎を作り上げた“日本体育の父”と呼ばれた三橋喜久雄さんと同じ鳥取の出身で、三橋さんに『私は指導者を育てるから、あなたは器具を作ってください』と言われたことも大きかったと聞いています」(セノー広報担当)。
その後、セノーは初めて肋木を製造し、鉄棒やあん馬といった体操器具を販売しました。そして、今では国際大会で使用されるほど品質の高い器具を製造、販売する体育器具メーカーになりました。

セノー製の体操器具の中でも定評のある、あん馬。始まりは乗馬練習用の器具であったと言われています。あん馬は鞍(くら)を載せた馬を模した形をしていて、半世紀前に作られたセノーのあん馬のポメル(取っ手)は、馬の鞍と同じ真ちゅうの土台と木で作られていました(現在もこの仕様で製造しているメーカーはあります)。また、脚は4本あり、足先は蹄(ひづめ)の形をしていました。しかし、時代とともに技が高度化していき、演技中に選手の足がぶつかるケースが多発したため、現在では2本脚になり、ポメルも吸湿性が高く、滑りにくいプラスチック製に変わりました。
変化をしていった部分もあれば、変わらない部分もあります。それは、ボディに天然皮革を使用しているところです。あん馬のボディには牛の半身一枚分の革を使用しています。ある程度の大きさや、傷のない革を選んで、1台1台丁寧に、職人が手作業で革を張っています。あん馬一つとっても、セノーがものづくりにこだわりを持ち、高い品質を保ち続けていることが分かりますね。

1960年代と現代のあん馬比較。左が1960年代のもので、現在もセノーで保管されています

1960年代と現代のあん馬比較。左が1960年代のもので、現在もセノーで保管されています

時代とともに形を変えてきたあん馬に、今年新たな動きがありました。これまでは、ジュニアも大人と同じあん馬で練習し、大会も行っていましたが、子供にとってはポメル部分が高く体重移動がしにくい、演技中に引っ掛かりやすいなどの問題があり、「ジュニア用ポメル」が新登場しました。このポメルは、通常のあん馬に取り付けて使用することができます。今後、ジュニア用ポメルが子どもたちのパフォーマンス向上につながるとうれしいですね。

一般用ポメルとジュニア用ポメルの比較。左がジュニア用で、一般用と比較して約1.7㎝低くR形状も緩やかに

一般用ポメルとジュニア用ポメルの比較。左がジュニア用で、一般用と比較して約1.7㎝低くR形状も緩やかに

いかがでしたでしょうか?日本の“お家芸“ともいわれる体操競技を支えてきたセノーのものづくりについて、興味を持っていただいた方はぜひ、関連リンクのセノー工場紹介記事ものぞいてみてくださいね。