~今日はどうされましたか?~ グラブの修理 『野球工房 匠』

毎年、高校野球ファンの間では、甲子園に出場する選手達がどんなグラブを使っているのかが話題になったりしています。最新モデルを使っている選手もいれば、“年季の入った”グラブを使っている選手もいます。年季の入ったグラブの中には、今のランバードマークではなくMマークのグラブを使う選手もいたり。そんな年季の入ったグラブのメンテナンス先として野球人が駆け込む、いわば「グラブの病院」のような場所があります。それが、ミズノ直営店※1にある「野球工房 匠」です。今回のミズノマガジンは、「野球工房 匠」にフィーチャーしてみたいと思います。

※1 MIZUNO TOKYO、ミズノオオサカ茶屋町、ミズノ高島平、ミズノスクエア松本

筆者が訪れたのはミズノオオサカ茶屋町の「野球工房 匠」。リペアーマンの田中宗近(たなかむねちか)さんに色々お話を伺ってみました。

入社7年目※の田中さん。野球経験者でグラブが大好きだったことからリペアーマンの世界へ。
大先輩のエキスパートリペアーマンの下経験を積み、早や5年目になります。匠の技を着実に受け継いでいます。
※記事掲載当時

野球工房とはどんな所?

田中:買っていただいたグラブを直ぐ使えるように柔らかくしたり、お客様が持ってきたグラブを修理するのがメインになります。
小学生から社会人まで幅広い年代の皆様にお越しいただいてます。

筆者:グラブを柔らかくするというのは?

田中:新しいグラブの革はとても硬くて、使いやすくするために自分で柔らかくするのはとても時間がかかったり失敗したりします。そこで、+3,300円(税込)で資格を持ったスタッフが「匠仕上げ」をします。

~匠仕上げ~

①新しいグラブを専用の袋にいれて、約3分間70℃のスチーマーに入れます。

②機械で叩いて柔らかくし、更に木槌で叩いたり揉んで柔らかくし、捕球ポケットの型をつけます。
③乾燥させて、オイルを塗って完成です。

グラブの修理内容とは?

田中:多いのが紐の交換とウエブの修理になります。このグラブはある強豪高校の選手のグラブですが、ウエブ部分の交換になります。

そう言って見せていただいたのは昨年発売されたモデルで、使い込まれて最初と全く別の色になったグラブ。ですが、マメに手入れをされているようです。ウエブの部分を今のグラブの色に近い色の革で作って付け替えるそうです。

これ、全て同じ色番のグラブです。左上から時計回りに使い込まれ具合が違うだけ。下のグラブは某強豪校の方のグラブです。凄いですね。日々の努力、練習風景が見に浮かびます。

ウエブ部分を付け替えます。ウエブはサイズを測り革を切って一から作ります。

捕球面の革の破れを修理する場合は一旦グラブを解体して、内側に補強の革を当てて縫い付けるそうです。
この作業を見た他のスタッフは「まるでグラブの手術」と言います。
紐を全て解いて、グラブを外側と内側に分けます。

専用の器具を使って、指の部分を全てひっくり返していきます。

全てひっくり返した状態です。

これは修理サンプルの画像ですが、ひっくり返したグラブの破れた部分に裏側から補強の革を当てて縫い合わせ修理します。右は表から見た様子です。

また、高校野球は革や紐の色に規制があり、使える色が決まっています。皆さんは知っていましたか?

  • グラブはこの色の使用が認められています。

  • 紐は〇で囲った色が使用OKになります。

田中さんに思い出に残っていることを聞いてみました。

田中:小学生のころからメンテナンスに通ってくれているお客様が、昨年の夏の地方大会準々決勝まで残ったんです。店舗では地方大会の放送を流しているので、高校生活最後の夏をモニター越しですが観戦できたことが嬉しかったですね。

グラブを大切にしてくれているお客様が頑張ってくれていると嬉しいですね。他にも「赤カップ」マークのグラブを、今もメンテナンスしながら使い続けてくれているお客さまもいるそうです。約40年使い続けてくださっているとか。製品を大切に使っていただけることはメーカー冥利に尽きます。

グラブを修理して愛用

近年世の中では「SDGs」「サスティナビリティ」が叫ばれていいますが、ミズノではかなり前からこれらにあたる活動を行っていました。
限りある資源を大切に使う。メンテナンスできる道具は修理しながら大切に使い続ける。『野球工房 匠』は店舗固定型の修理工房ですが、ミズノでは移動式修理工房の『ワークショップカー』の活動も行っています。1978年からはアメリカメジャーリーグへのワークショップ活動を開始し、当時のメジャーリーガー達は日本人が器用にグラブを修理する様子を見て「魔法使いのようだ」と驚いて、「俺も、俺も」と次々に選手たちが訪れたそうです。

このように、日本人の「モノを大切にする心」「手先の器用さ」を存分に発揮させている『野球工房 匠』に、一度足を運んでみてください。野球未経験者でも、リペアーマンの技に見入ってしまうこと間違いなしです!

番外編

田中さんが練習のため、自分で買ってきた革で作った小物入れと、端材で作ったカード入れ。全て手縫いです。

先輩リペアーマンが端材で作った名刺入れ、ハサミケース、ぞうさん