松下祐樹さんが新たなステップへ踏み出した!選手を支える立場になって改めて気づいたこと

400mハードルの選手としてオリンピックにも出場(2016年リオデジャネイロ大会)、長く日本のハードル界を引っ張ってきた松下祐樹さんは今年9月に岐阜県で行われた「第70回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会」で現役生活に別れを告げました。今はミズノ株式会社で陸上競技・ランニングを担当する課の一員として日々業務に励んでいます。どんな気持ちで仕事に取り組んでいるのかを聞きました。

引退セレモニーでミズノトラックラブの仲間と

引退セレモニーでミズノトラックラブの仲間と

10月半ば、ある長距離の大会会場に松下さんの姿がありました。多くの陸上関係者が集まるこの場所で、現役時代にお世話になった方や知り合いの皆さんへ、ミズノでの新しい仕事に就いたことの報告を兼ねて挨拶回りをしました。「現役時代の自分を知っている方もいましたが、改めて自分の顔と名前を覚えてもらうのが第一の仕事なので」と松下さんは初めての大会会場でも積極的に動き回りました。同じ陸上競技でも、松下さんはハードル(大学までは混成競技)を専門にしていたので、長距離種目は専門外でしたが、そこは「同じ陸上なので短距離も長距離も大好き」と持ち前の明るさで語ってくれました。確かに現役最後のレースの後も「どんなに練習が苦しくても続けられたのは、陸上が大好きだから」と言っていました。それは引退しても変わっていません。

最後のレースとなった全日本実業団陸上

最後のレースとなった全日本実業団陸上

松下さんは前任者から担当のチームや選手を引き継ぎ、これからはトップチームの指導者や選手の皆さんとのやり取り、そしてオーダー品を中心としたウエアやシューズの手配が主業務になっていきます。そんな中の大事な仕事の一つが、新しいシューズの試作品を実際に選手に履いてもらい、フィードバックをもらうというものです。開発部門の担当者とチームや選手を繋ぐという役割で、選手の方々との信頼関係が求められます。松下さんは「販売促進の仕事はマニュアルがあるわけではないし、常に変化していく仕事だと思います。今はまだできていないのですが、母校である順天堂大学を繋ぐ役割を果たしたい」と語ってくれました。今は社内のさまざまな事を覚えるためのデスクワークが多いですが、すぐに現役時代から培った陸上競技の人脈を生かした仕事で会社に居ないことが増えそうです。

今は社内の事務を覚えることが第一

今は社内の事務を覚えることが第一

松下さんは現役時代、スパイクについてこだわりが強かったそうです。試合ではすぐに使わず、練習で慣らしてから使っていました。トップアスリートなら当然ですが、自分のフィーリングに合うものを求めます。つまり足型に合ったオーダーで作ることになりますが、これは足型を採寸し、クラフトマンに相談しながら、手作業で仕上げることが必要になります。松下さんは、今の仕事をするようになって、オーダーシューズは多くの人が関わるというのを知ったそうです。「チームで揃えるウエアには、その学校のロゴなどが入りますが、小さなマーク一つとっても、ウエアを手配する、マークのデザインを考える、マークを入れるなど多くの人が関わって、こんなにも時間がかかるものかと」知ったそうです。その上で「もし今現役に戻ったら、‟スパイクは定番(市販品)で良いです“というと思います」と現場の苦労を改めて身近に感じた様子。さらに「競技者として支えて下さっていた多くの皆さんには感謝の言葉を伝えてきたつもりでしたが、全然足りませんでした」と支える側の大変さを感じたからこその本音も話してくれました。

そんな現役時代の経験があるからこそ、選手に寄り添いながら、新しい機能や考え方を選手に伝えていける選手の目線を持った担当者として活躍が期待されています。自分自身が所属した「ミズノトラッククラブ」に入れるような将来性のある選手を見つけ、サポートし、その成長を見守るのも販促員の仕事です。

こだわりが強かったスパイク

こだわりが強かったスパイク

松下さんは中学で陸上競技を始めた時から、身近にある目標を少しずつクリアしてステップアップを繰り返し、最終的に世界大会でのメダル獲得を目標にするという所にたどり着きました。新しい人生での夢はまだ持てていないそうですが、競技の時と同じように目の前の仕事に全力で取り組んでいくことで、最終的な大きな夢へたどり着きたいと語ってくれました。大学卒業後はミズノが運営するクラブチームである「チームミズノアスレティック」に所属。そこからコツコツと努力し、社員選手である「ミズノトラッククラブ」に昇格したのと同じような感じではないでしょうか。

松下さんは、昨年のお正月の学生駅伝は実家のある小田原で応援したそうですが、この冬、初めて仕事として現場で見ることになりそうです。今まで応援していた母校の順天堂大学に加え、担当する大学や選手が増えることは、その分だけ仕事もやることが増えて、忙しくなりますが、それが夢へ近づく一歩になるはずです。

松下祐樹さん

松下祐樹プロフィール

1991年9月9日 神奈川県出身 県立小田原高校-順天堂大学-チームミズノアスレティック-ミズノトラッククラブ
順天堂大学時代に十種競技で日本ジュニア選手権や日本インカレを制覇。
大学4年次から400mハードルへ取組始め、社会人になってからメイン種目として本格的に取り組む。
2015年の北京での世界選手権では準決勝進出、2016年リオデジャネイロオリンピック出場。
2022年シーズンで現役引退。