スキージャンプ 日の丸飛行隊の陰に、ミズノ社員あり

冬のスポーツ競技と言えばスキー・スノーボード・スケート・スキージャンプが思いつきますが、ご存じの通り日本はスキージャンプの強豪国で「日の丸飛行隊」なんて愛称もあるほどです。スキージャンプ用語として「K点越え」「ラージヒル」「ノーマルヒル」「テレマーク」は耳馴染みのある言葉ではないでしょうか?みなさんはもっと知っていますか?

夏のジャンプ台

今回のミズノマガジンは、スキージャンプ競技の裏方スタッフさんにスポットを当ててみたいと思います。

尾形さん

冬季選手担当 尾形

さまざまなスポーツ競技には選手のみならず、大会運営を支えるスタッフさんなど裏方さんが大勢います。スキージャンプの選手達を支える裏方スタッフにはミズノ社員もなくてはならない存在です!今回紹介するのはミズノ入社4年目の尾形です。
みなさん「若干入社4年目が日本代表選手の担当!?」と思われるかもしれませんが、尾形は小学4年生からスキージャンプ競技を始め、大学1年生のインカレ大会では2位になる実力者!中学1年生からはノルディック複合も始め、ジャンプ競技共に大学卒業まで全国レベルのバリバリの選手だったのです。日本でのW杯や、平昌冬季五輪プレ大会でのテストジャンパーもしたことがあるとか!
なんでも、今の日本代表選手の中には子どもの頃に同じジャンプ台で練習をしていた選手もいるのだとか。子どもの頃から共に戦ってきた今の代表選手達や、その周りの連盟スタッフの皆様とも顔馴染の仲だそうです。

尾形:前のシーズンまで選手だったのに、急にミズノの社員として選手対応側になってるから逆に選手たちから「えっ!? そっち側なの?」ってビックリされます(笑)

では、実際に尾形がどのようにスキージャンプ選手のサポートしているのか聞いてみましょう。

尾形:ジャンプスーツはどこででも買える商品ではないので、夏の受注会で採寸して購入いただいてます。受注会では僕と氷上工場(ミズノの縫製工場)のスタッフ2~3人で150人くらいを一気に採寸して、シーズンまでに全て縫い上げます。ジャンプスーツにはとても厳しいルールがあるので、既製品ではなく全てオーダー品になります。12月の国内戦で納品するのですが、その時に最終調整をします。ある程度サイズに余裕を持たせて作っているので、試合会場でルールに沿うように詰めて縫い直したりして最終調整をします。2~3日かけて全員の調整をします!

ミシンを使えるんですか?

尾形:はい。入社して7月から氷上工場に研修に行きました。その時に初めてミシンを触りました。1着のジャンプスーツを2日かけて一から作りました。今はミシンを持って、海外遠征にも帯同してますよ。ほら、今も横にありますよ。

そう言って、ミシンをモニター越しに見せてくれました。実はこのインタビューは尾形が日本代表選手に帯同中に行ったもので、ノルウェーのホテルからオンラインで参加してくれていたんです。ノルウェーの前はロシアだったそうです。

  • ジャンプスーツを調整する尾形
  • ジャンプスーツを調整する尾形

ホテルの部屋でジャンプスーツの調整をする尾形

尾形:さっき12月に納品するって言いましたけど、代表選手には11月から始まるワールドカップで納品して調整します。で、今僕はまさにそのワールドカップに帯同中というわけです。

一人で代表選手全員のスーツ調整をしているのですか?

尾形:ミズノからは僕一人です。全日本スキー連盟(以下:SAJ)からもう一人来ていて、二人で選手対応をしています。代表選手は「男子ジャンプ」「女子ジャンプ」「複合男子」「複合女子」の4つのチームがあって、合計20人の選手を担当しています。でも試合によっては4チームの試合会場が違うときもあるので、SAJスタッフと僕と話し合って帯同先を決めます。チームでもミシンは持ち歩いているので、僕もSAJスタッフもどちらも帯同できない場合は、チームスタッフが調整をすることになります。

サポートしていて選手の体型の変化はすぐに感じますか?

尾形:はい、わかりますね。ジャンプ選手はシーズンを通してどんどん細くなっていくんです。代表選手ともなると長期間海外を転々とするので、トレーニングの回数が減ってきて夏に鍛え上げた体でも筋力が落ちてきて細くなるんです。それに、遠征期間が長いので日本食を持ち込める量も限られますし、ホテル暮らしが多くなるのでどうしても食事面の影響も大きくなると思います。11月の開幕から3月の閉幕まで、毎試合スーツを詰めて調整します。特に腰回りとか太もも回りを調整することが多いですね。

ジャンプスーツにはとても細かく厳しいルールがあるとのことですが、全て把握するのは大変ですね。

尾形:そうですね。僕は選手のときはジャンプスーツに関してはルールを完璧にわかっていないところもありましたけど、今はしっかり理解して選手たちが安心して競技に集中できるように調整作業をしています!でも、ルールって毎年変わって本当に厳しいんです。

スキージャンプって、ヨーロッパは国をあげての競技らしいですね。

尾形:そうなんです。スキージャンプは大げさに聞こえるかもしれませんが、国家レベルでの熾烈な情報戦が繰り広げられているんです。厳しいルール内でギリギリのラインでスーツの開発をしているので、どの国も他国のスーツが気になってしょうがないと思います。スーツに使える素材は決まっているので、パターン(設計)勝負になってくるんです。

他国のスーツを手に取ったことはないのですか?

尾形:スーツは超秘密事項なので他国の選手には見せないし、選手同士でも国ごとに更衣室が違います。他国の選手が近くを通ったりしたら"ガン見“ですよ(笑) 『どんなカッティングになってるのかなぁ』って(笑) 他国選手の写真を見たり、映像とかを見ながら次のスーツをどうしようか考えたりしています。

あんな高い所から飛ぶ選手もすごいですけど、20人分の日本代表選手を背負っていると言っても過言ではない尾形もすごいですね。聞いているだけで胃が痛くなりそうです。体調管理も大変ですね。

尾形:まだ若いので体力には自信あります。帯同先では音楽を聞いたり外を散歩したりして気分転換をしています。

最後に、目標を教えてください。

尾形:短期的には選手に金メダルをとってもらうことです。
長期的には2030年の大会に向けて、そこでも金メダルをとれるスーツを作っていきたいです!

力強く語ってくれた尾形にインタビュー後の予定を聞いてみると、「朝ご飯を食べたら、ホテルの部屋で選手たちのジャンプスーツ調整をします」とにこやかに答えてくれました。

これからスキージャンプ競技を見た時は、ジャンプスーツ調整スタッフがいることを思い出してみてください。

ニジニ・タギル(ロシア)のジャンプ台をバックに