DEVELOPMENT STORY

ブレスサーモ開発秘話
誰も経験したことのない 「温かさ」を追求し続けた 30年の挑戦。開発者 白石 篤史
誰も経験したことのない 「温かさ」を追求し続けた 30年の挑戦。
開発者 白石 篤史
おかげさまで誕⽣から30周年を迎えた「ブレスサーモ」。寒い冬をもっと温かく、もっと快適にしたい。ブレスサーモ開発者・荻野穀の想いを受け継いだ⽩⽯篤史が語る、歴史と未来への想い。本当にいいものを届けたいという情熱は、30年を迎えても変わることはありません。

Q.ブレスサーモ開発のきっかけとは?

Q.ブレスサーモ開発のきっかけとは?

ブレスサーモの誕⽣は、⽔分を吸収することで発熱する⾼吸放湿素材を発⾒したことがはじまりでした。私の上司であった開発者の荻野穀は、⻑らくスキーウエアの開発を担当していました。スキーウエアは「温かい」ことが重要です。⾊々なアプローチで温かさを追求していたなかで、湿気を吸って熱を発する⽺の⽑に注⽬。この発熱の要素を科学的に⾼めることができればこれまでにない温かさを価値とする商品につながると考え、メカニズムや材質などの調査と研究を繰り返し、たどり着いたのがブレスサーモの原綿となる⾼吸放湿素材でした。

当時は、衣料用素材(綿やポリエステルなど)以外をスポーツウエアに用いる発想がない時代でした。それでも常識にとらわれない発想で、湿気を吸うことで発熱する機能性は「⾐服に使えるのではないか」と追求。そして1992年、偶発的に⾼吸放湿素材を発⾒することができました。いち早く湿気を吸って発熱する理論(吸湿発熱)を定義した私たちは特許を申請。ここからブレスサーモの⻑くて険しい物語がはじまりました。

Q.ブレスサーモの挑戦の歴史について

Q.ブレスサーモの挑戦の歴史について

スポーツアパレルの会社であるミズノは、原綿をつくる⼯場を持っていませんし、⽷やテキスタイルをつくる環境もありません。そのため、綿をほぐしてスキーウエアにつめることから始めました。綿をたくさん⼊れて膨らみを持たせれば温かい服をつくることはできますが、着膨れすると動きづらくなって着脱も困難になります。膨らますのではなく発熱する素材のブレスサーモを使うことで、服のボリュームを抑えながら温められるので動きやすくなるという、理想的なスキーウエアを完成させます。

初代のブレスサーモは、1994年のリレハンメル五輪の⽇本代表チームのスキーウエアに採⽤され、この最新のテクノロジーは選⼿たちから⾼く評価されました。確かな⼿応えを得た私たちは、この素晴らしいブレスサーモを市場に向けて打ち出していこうと新たな取り組みを進めていきます。

ブレスサーモ原綿の特徴である「温かさ」を感じてもらうにはアンダーウエアが最適だと考え、90年代後半に新たな市場が形成されようとしていたアウトドア業界に向けて、新しいブレスサーモの開発を進めることとなりました。アンダーウエアはテキスタイル化が求められるため、スキーウエアのように原綿をつめこむわけにはいきません。そこで私たちは「ブレスサーモを⽷にする」というプロジェクトに挑むことになりました。

Q.ブレスサーモの挑戦の歴史について

もともと弱くて伸びない素材のため、⽷になっても引っ張ればすぐに切れてしまい、多くの紡績⼯場で「ブレスサーモ原綿は⽷にできない」と⾔われ続けましたが、さまざまな素材との組み合わせや混ぜ⽅を試⾏錯誤し3年、糸の形状を担保する限界値の強度に達したブレスサーモの⽷の完成に成功します。

アンダーウエアの⽣地をつくるための編み⽴てや染⾊においても課題がありました。編み⽴ては通常、⽬に⾒えないスピードで⾏うものですが、ブレスサーモの⽷は切れやすいため、⼈の⼿によって⾮常にまろやかに編み⽴て機を動かして⽣地をつくりました。染⾊においても同じく⼀つ⼀つの⼯程をケアしながら⾏うなど、繊細な⼯程を重ねてブレスサーモのアンダーウエアを完成させました。

ブレスサーモは原綿、⽷、編み⽴て、染⾊というすべての⼯程を国内の⼯場でつくっています。⽇本は繊維産業が急速に発展しましたが、若年労働者不⾜や⼈件費⾼騰など様々な影響を受けて衰退。それでも技術は世界トップレベルであると実感していたため、その技術を⽣かしてブレスサーモをつくることで⽇本の技術を残していこうという想いもあって、世の中が海外⽣産へと進む中でも私たちは今なお国内製造にこだわり続けています。

Q.ブレスサーモの機能や特徴について

Q.ブレスサーモの機能や特徴について

⽇本の⾼度な技術と発想によって⽣まれたブレスサーモのアンダーウエアは、当初、アウトドア業界において⾼く評価されました。評価された要因としては、湿気を吸って発熱するので温かいという特徴に加えて、臭いに対する消臭機能も⼤きかったようです。アウトドアは⼀⽇中歩いて多くの汗をかくため、臭いが気になるものです。ブレスサーモには嫌な臭いを吸い込む消臭機能があったため、技術改良を進めていくことでその機能を強化させました。その結果、温かくて汗の臭いも気にならないということで多くのお客様に喜ばれています。また、アンダーウエアとしての品質をアップグレードしていくために、薄くても温かいという機能と、着心地とスポーツ品質の破れにくいという物性、堅牢度の相反する両方の品位を保つことにも注⼒。従来品とは違い、より快適性を追求して薄さと伸びにもこわだっています。

また、メーカー各社が温かいウエアを発売していくなかで、スポーツメーカーのミズノが開発するウエアの強みをより明確にするため、スポーティな温かさを追求しています。冬でも動いたり寒暖差によって汗をかくため汗の処理は⼤切ですが、ブレスサーモは汗をかいても冷えにくく、次の活動の時には汗が乾いています。動くことを前提に汗処理を意識した製品設計で、快適に着続けられるウエアであることも⼤きな特徴と⾔えます。

Q.ブレスサーモの機能や特徴について

Q.これからのブレスサーモ製品の開発への想い

Q.これからのブレスサーモ製品の開発への想い

ブレスサーモの原綿は組成の分類がなかった新しい素材です。私たちが開発し、世に送り出して初めて素材として使⽤されるようになり、30年の時を経て「アクリレート」という繊維名称としての分類ができました。これまで存在しなかったブレスサーモは、ミズノの発展にとっても財産となる材料です。この財産を⽣かすためにも、今後はスポーティな温かさをブラッシュアップして、あらゆるスポーツをする時に「冬はブレスサーモ」という定着させていきたいです。同時に、快適性をさらに⾼めることでより多くの⽣活者に⽇常で着てもらえる魅⼒的な商品へと進化させていきます。

2022年11⽉には、研究開発⼒を強化しスポーツによる社会イノベーション創出を加速させるために、イノベーションセンター「MIZUNO ENGINE(ミズノエンジン)」も創設されました。ミズノでは、スポーツを「楽しく体を動かすこと」と定義し「スポーツで⼈を幸せにする」ことを使命としています。これからも世界中の⼈たちに「快適で温かい冬を過ごしてほしい」という想いで、ブレスサーモの開発を続けていきます。