

より強く、より繊細に

繊細なボールタッチを求められた 「7枚合板」
攻撃型プレーヤーのために開発された、
細かいプレーやボールの緩急、
スピーディで威力のある攻撃と繊細さを求める
攻守のバランスに優れた7枚合板モデル。

テーマは「つかむ」
7枚合板モデル(フォルティウス)の発売を間近に控えた頃、
ミズノ卓球ラケット開発チームはすでに
次なるラケットの模索を始めていた。
「よく弾く」、「重いボールが打てる」などハードなイメージの7枚合板に、
コントロール性を向上させ、
まるで素手でボールを触れるような感覚のラケットはできないのか。
攻守のバランスがとれた理想の形を、
様々な角度からアプローチしながら、
試行錯誤していたそんな時、
開発チームの中に、ひとりの選手が浮かんだ。

飛ばしたい時に飛ぶ、止めたい時に止まる。
私の意志をボールへ伝えたい。
《 元日本代表 藤沼 亜衣 監修 》
2011年2月、ジャパントップ12で一人のプレーヤーが、
その選手生活にピリオドを打った。
「優勝」という二文字で有終の美を飾ることはできなかったが、
その戦いぶりは、多くの人に「まだまだ第一線でやれる」と
感じさせるものであった。
藤沼亜衣、その人である。

ジュニア時代から「天才少女」と呼ばれ、
国内外で活躍をしていた彼女。
当時、彼女が持つ天性のボールタッチ、
打球感覚の良さは、誰もが認めるところだった。
開発チームは、直ちに協力要請を打診、
快諾を得ることができた。
幾人かのメンバーは、すでに試作していた
数本のラケットを持ち、彼女が所属していたチームの練習場がある
茨城県日立市へ飛んだ。

感覚
「強打は良いけど、細かなプレーの感覚が出ない」、
「これは飛びすぎてコントロールできない」、
「フォアとバックで弾きの感覚が合わない」、
それ以外にもトッププレーヤーとしての
彼女のラケットへの想いが次々と溢れ返ってくる。
そんな彼女が、フォルティウスに求めたもの、それは
「飛ばしたい時には飛んで、止めたい時には止まる」
「自分の思った強さのボールが打てる」
「自分の手と一体感があり、意思がしっかりとボールに伝わる」
まるで、ボールを素手で受け止めるようなラケットとの一体感。
彼女の要望と開発チームのテーマが、合致した。
何度、足を運んだろうか、、
試打で得られた情報を持ち帰り、開発チームは新たな試作に取り掛かる。
木材の種類、厚さとその組み合わせといった
ブレードの構成だけでなく、ラケットの振動数という
領域にまで踏み込んでいく。
微妙な振動数の違いに対しても、彼女の感覚が反応し、
コメントとなって返ってくる。
そんな作業を繰り返すたびに、彼女の感覚とラケットが
確実に近づいていることを開発チームは感じていた。
そして、ようやく彼女から 「これを試合で使う」
という返答がもらえた。

辿り着いた、一つの答え
はじめて日立市の練習場を訪問してから、約1年が経過していた。
この時間は、全日本選手権以降、世界選手権、
日本リーグ、全日本社会人、国体など
非常にタイトな試合スケジュールの合間を縫うようにし
て行われた試打のなかで、納得のいくものを
ミズノと一緒にという彼女の熱意と開発チームの
探究心の積み重ねと言える。

そして、藤沼亜衣が、このラケットで臨んだ、
その年の2月ジャパントップ12。
前月の全日本選手権でも3位に入り、
その存在感を確実に示していた。
が、その裏で彼女は、3月での引退を決意していた。
選手生活を締めくくるという時期にこのラケットを選んだのは、
彼女がその開発に打ち込んだ思いと
ラケットの仕上りに対する自信の表れである。
決勝で敗れはしたが、そのプレーは彼女らしさを十分に
表現した素晴らしいものであった。
試合後、彼女から「フォアは重いボールが出て、
バックは相手がいやがるナックルボールが打てた。
とても満足しています」
と嬉しい連絡が入った。ラケットが、選手からの信頼を
勝ち得た瞬間だった。
彼女がこのラケットで優勝し、引退の花道を飾りたいと
考えていた東京選手権は、その年の東日本大震災の影響で
中止になったことが残念でならない。

FINE TOUCH
フォルティウス(FORTIUS)は、「より強く」という意味、
ミズノと藤沼亜衣が追い求めたテーマ「つかむ」の意味を込めて
「FINE TOUCH(ファイン タッチ)」の頭文字をとり、
この7枚合板モデルは、フォルティウス FTと名づけられた。
藤沼亜衣の熱意と天性の打球感覚、
そしてミズノの開発チームの物づくりへの探究心は、静かにそして深く、
今もなお、フォルティウス FTに刻み込まれている。
そして、この両者の思いは、
次の世代へ「大島祐哉」に受け継がれることとなる。
