ジョグのすゝめ / VOL.03 ジョグの積み重ねが 余裕を生む。 法政大学 長距離ブロック 宮岡 幸大

 「⾼校時代は1500mなどミドルをやっていたので、スタミナ練習が苦⼿でした」
 こんなことを⼝にするのは、法政⼤学4年の宮岡だ。もともと中距離を主戦場としていたため、⻑い距離には苦⼿意識を持っていたという。
それが、今ではハーフマラソンを1時間2分で⾛り、駅伝ではロング区間をこなす選⼿になった。

ジョグを積み重ねて
練習量をこなせるように

 「⼤学に⼊って朝練習の集団⾛だったり、ポイント練習後のダウンジョグだったり、丁寧にジョグに取り組んできたおかげで、ハーフマラソンの距離を⾛れるスタミナが付きました。1年⽣の頃は、多い時でも⽉間700〜800キロが限界でしたが、2年⽣以降は⽉間1000キロぐらい⾛っても余裕を持って練習ができています。
練習の継続性という点で、余裕を持って練習をこなすことは⼤事。余裕を持つことができれば、どんどんプラスアルファで練習することができて、それがより良い結果につながる。ジョグを積み重ねてきたことで、そういった余裕を持てているのは、とても良いことだと思っています。」

ジョグのすゝめ vol.03

 こう話すように、ジョグを重ねることで、⻑い距離を⾛る練習に抵抗なく取り組めるようになり、⼤学2年⽬には駅伝のメンバーにも選ばれた。今では主⼒の⼀⼈に数えられる。

 

 もちろん⾼校時代にもジョグには取り組んでいたが、⼤学に⼊ってからのそれは根本的に違うものだった。何よりも“⾃分で考えること”を求められるのが⼤きな違いだ。

 

 「⾼校時代は与えられた練習をただこなしていただけでしたが、⼤学に⼊ってからは、⾃分に委ねられる場⾯が増えました。ジョグとポイント練習との割合は、8対2から7対3と、圧倒的にジョグのほうが割合が⼤きく、ジョグが練習のベースになってきます。ポイント練習はある程度設定タイムなどの内容が決められていますが、ジョグは⾃由に⾛る場合が多いので、⾃分の状態に合わせた練習を⾃分で考えなければいけません。もちろんポイント練習も⼤事ですが、ジョグでしっかりと⼟台を作っていくことはそれ以上に⼤事にしています。
1年⽣の頃は、与えられたメニューをこなすことに⼿⼀杯で、どんどん調⼦も落ちて、1年⽬は駅伝のメンバーに全く絡めませんでした。⾃分に合った加減の仕⽅を⾒つけるのに時間がかかりました。
“ジョグが⼀番難しい練習”だと坪⽥監督がよくおっしゃっていますが、本当にその通り。ジョグがいかに重要な練習かを⽇々実感しています。」

ジョグのすゝめ vol.03

その⽇の状態や⽬的によって
ペースは異なる

 それでは、⼤学⽣ランナーはどのぐらいのペースでジョグに取り組んでいるのだろうか。宮岡に聞くと、“ジョグ”と⼀括りにできないほどに、ペースには幅があった。

 

 「フリージョグのペースは、その⽇の状態によって変えています。キロ5分ペースでゆっくり⾛る⽇もあれば、キロ3分半ぐらいまで上げることもあります。とにかく⾃分の状態に合わせた練習を⾏うように意識しています。例えば、疲労を抜くことが⽬的であれば、キロ5分ぐらいを⽬安に⾛ります。僕の場合、キロ5分よりもペースを落としてしまうとストライドが狭くなるので、フォームをなるべく崩さないように気を付けています。
⼀⽅、試合が近づいていて“動きを作りたい”とか“刺激を⼊れたい”という時はキロ4分を切って⾛っています。
でも、調⼦が良いときでもゆっくり⾛ることもありますし、逆にちょっと体が重いときでも、試合が近ければペースを上げて動きを意識してジョグをすることもあります。

ジョグのすゝめ vol.03

 ウォーミングアップのジョグは、その時の調⼦次第で⾛る距離を変えています。
調⼦の良い時には2〜3キロで切り上げることもありますし、“動きが悪い”と感じたときは、5キロ、6キロと距離を踏んで、動きを作るような意識でアップをしています。
アップの段階で“このぐらいでいけるだろう“というのを敏感に感じるほうなので、今の100%のパフォーマンスをできるように、レースに備えています。

 

 朝練習では集団⾛でジョグを⾏うことがありますが、実は、僕は集団⾛が苦⼿です。他の⼈に引っ張ってもらえるというメリットもありますが、他の⼈の感覚に依存しないといけない部分が出てくるからです。でも、実際のレースでは他⼈のペースに付いていくという場⾯が出てくるので、⾃分が⾛りにくいと感じる中で、いかに⾃分のペースを作っていけるかを意識して⾛っています。

 

 このように、どんな場⾯でも、⾃分の体の状態とそのときの⽬的とを考慮して、ジョグに取り組んでいます。」

 

 しっかりと⾃分の状態を把握し、また、その時々の⽬的をちゃんと理解してジョグに取り組むことに意義がある。
これがレースで⾃⾝のパフォーマンスを最⼤限に発揮する秘訣でもある。

ジョグとは体との対話

 ⾃分⾃⾝と向き合うことになるジョグは、マインドフルネスのようなものなのかもしれない。宮岡の⾔葉はそう思わせる。

 

 「“ジョグとは体との対話”。私はこう考えており、⾃分⾃⾝の感覚と現状とのすり合わせを、常に⾏うようにしています。特に、動きづくりを⽬的とするときは、ジョグを通して、⾃分のイメージしている⾛りと、実際に今⾛れている⾛りとの感覚のズレ、差異をなくしていくような意識で⾛っています。脚の動きや腕振りはもちろん、重⼼の位置など、あらゆる要素が噛み合ったとき、“何も⼒を使わずに⾛っている”という感覚になり、楽に⾛れます。
ジョグは原点にして頂点。ペースだけではなくて、動きの⾯などジョグの質を上げていくことが、最終的に試合の結果につながると思っています。そういった意味でも、ジョグの質を⾼めることは、僕にとってとても⼤切なことです。」

 

 ジョグとはこれほどまでに奥が深い練習メニューなのだ。

ジョグのすゝめ vol.03