
「ジョグで強くなれる」――法政⼤学の坪⽥智夫駅伝監督のこの考えは、チームにしっかり浸透している。
「ジョグは⻑距離選⼿のベースになるものだと考えています。ジョグがきちんとできなければ、距離⾛などのポイント練習(強度の⾼い⼤事な練習)や試合に近い実戦的な練習もできませんから。」
今季チームの主将を務める⼩泉樹もまたジョグを⼤事にし、ジョグで⼟台を築いてきた選⼿だ。
ジョグで調⼦の良し悪しを確認
毎⽇継続して⾏う練習メニューだからこそ、ジョグを通して調⼦を確認することができ、⾃⾝の体のちょっとした変化にも気づける。これが、ジョグが⼤事な練習であることの理由の1つだ。
「ジョグでは動きを意識したり、疲労具合を確認したりすることができます。また、ジョグで、シンプルに疲労を抜くこともできます。最近は特に、ジョグをすることで筋⾁がほぐれていく感覚があり、そういう感覚が得られた時は、⾃分のなかで“調⼦がいいな”って思うので、調⼦の良し悪しを感じるためにもジョグは⼤事です。
また、過去にケガをした時に感じたことですが、ポイント練習に復帰するまでのジョグは、練習を継続できている時のジョグとは全く違うものになっていました。
ケガをしたことでバランスが悪くなったり、弱っている筋⾁があったりするので、そういったところを⾃分で確認しながら、良い動きを意識していました。ケガから復帰するまでのジョグは、とても⼤切なものだったと思っています。
このようにジョグには、いろんな意味や効果があります。」
⼩泉はこのようにジョグの重要性を説く。

リラックスすることを意識する
ジョグは何も考えずにゆっくり⾛ればいいというわけではない。ジョグだからこそ、意識すべきポイントというものがある。
「僕がジョグのなかで最も意識しているのは、リラックスして⾛ることです。僕は特に上半⾝が硬くなりがちです。スピードを上げたり、試合でレースペースで⾛ったりしていて、きつくなってくると硬くなってしまう癖があるので、とにかくジョグの段階で上半⾝の⼒を抜くように⾛ることを意識しています。
なので、普段のジョグでもあまりペースを上げずに、ゆっくり⾛っています。集団で⾛るときは1キロ4分ペースですが、各⾃に任されるときは、だいたい1キロ5分ぐらいのゆったりしたペースから⼊って、最後は気持ちよく4分30秒ぐらいまで上げて終えるようにしています。このようなジョグを、⾃分のベースとしています。
リラックスできるペースというのは⼈によって違いますし、その時の体調等によっても変わってきます。その時の⾃分に合うペースを⾒つけることが⼤事です。
リラックスして⾛れれば、無駄な⼒を使わず、省エネの⾛りになり、フォームが崩れることもないと思います。
ポイント練習やレースが近いときには、ジョグの後に流し(7〜8割程度の⼒で100mほど⾛る)を⼊れています。ジョグが続くと、体が重くなったり、速い動きができなくなっていたりするので、速い動きの流しを⼊れることで、ジョグとレースペースとのギャップを埋めて、“いつでも速いスピードで⾛れる”という感覚を⾃分の中に戻しています。
⼀⽅で、疲労が抜け過ぎていると感じたときや、フォームが上に跳ねているという感覚があるときは、ゆっくり⾛るよりも、少し速めのジョグを⾏っています。上に跳ぶのではなく、前に進むような意識づけをジョグで⾏います。
また、ゆっくりペースのジョグが何⽇間か続いた時にも、練習にメリハリを付けるために、キロ4分ペースぐらいで普段より速めのジョグを⼊れることがあります。」
⼩泉の場合は、以上のような意識でジョグに取り組んでいる。ポイントをちゃんと押さえることで、ジョグはより効果的な練習になる。

意識の持ち⽅ひとつで
ジョグの質が変わる
「坪⽥監督は『ただジョグして終わるだけでは意味がないので、どういった意識を持ちながらジョグをするかで、ジョグの質が変わる』と、よくおっしゃっています。おそらく他の⼤学のどの監督さんよりも、ジョグを⼤事にされている⽅だと思います。普段から監督は、私たち選⼿がジョグをしている様⼦を⾒ており、駅伝のメンバー選考には、ポイント練習はもちろん、ジョグも参考にしているのだと思います。
ジョグの⼤切さを普段から監督にお話しいただいていますし、私⾃⾝も、ジョグの⼤切さを感じながら練習に励んでいます。」
1年⽬から主⼒として活躍してきた⼩泉だが、さらに成⻑を遂げるための鍵もジョグにあったという。
「法政⼤学は、結構距離を踏むチームです。⾼校時代はあまり距離を⾛る⾼校ではなかったので、1年⽬はなかなか⼤学の練習に対応できませんでした。
夏はだいたい⽉間1000キロを⽬安にしていますが、過去の3年間はギリギリ1000キロに届きませんでした。4年⽣になってだいぶ余裕を持って⾛れるようになり、今年は1000キロを超えることができました。ウォーミングアップやクールダウンのジョグを含めると、そのうちの7割ぐらいをジョグが占めているんじゃないかと思います。ジョグに余裕が出てきたことで、普段のジョグでリラックスすることを意識して⾛れますし、レースでの安定感も⽣まれたと感じています。
ジョグはランナーの基礎となるものだと思っています。」
急がば回れ。決して疎かにすることなく、丁寧に取り組むことで、ジョグでレベルアップすることは可能なのだ。
