ジョグのすゝめ / VOL.01 ジョグで 長距離走者は強くなれる。 法政大学 駅伝監督 坪田 智夫

 近年、正⽉恒例の⼤学駅伝で安定した結果を残しているのが法政⼤学だ。1つのブレーキが致命傷になりうる昨今の駅伝において、抜かりなく底⼒を⽰してきた。2013年よりチームの指揮をとる坪⽥智夫駅伝監督にその秘訣を聞くと、特別な練習があるわけではなく、普段のジョグにあるという。

ローマ字でたった3⽂字の
“JOG”の奥深さ

 「ジョグは⻑距離で競技⼒を向上させる⼀番の近道。ポイント練習(強度の⾼い重要な練習)をやらなくても、ジョグだけで強くなれると思っています。

 

 ローマ字にすれば“JOG”とたった3⽂字ですが、キロ6分半ペースもジョグだし、キロ3分10秒ペースでもジョグと思えばジョグと捉えることもできる。キロ4分から3分20秒までビルドアップするジョグもある。
どのように実施するか、内容次第で、ジョグだけでもある程度は競技⼒を上げられると思います。⼤事なのは、それをしっかりやれるかどうかです。」

 

 坪⽥監督がこう話すように、⼀⼝にジョグと⾔えど、どのように取り組むか、そのバリエーションは多い。普段何気なくジョグに取り組んでいる⼈は多いと思うが、実は奥深い練習⽅法なのだ。

ジョグのすゝめ vol.01

 坪⽥監督がジョグを⼤切にするのは、⾃⾝の体験によるところが⼤きい。

 

 「ジョグを軸に練習を組み⽴てていくことは⾼校時代に⾝に付いたと思っていますが、⼤学⽣になっても、1年⽣の頃はまだまだ“なんとなく”で⾛っていました。
 ⼤学2年⽣の時に、正⽉の駅伝にチームが出られなかったことがあり、その時から“どうやって強くなろうか”と、⾃分の中で問うようになりました。そして“上を⽬指さなければならない”と考えるようになりました。
その頃、合宿先で他⼤学のエース選⼿が90分も120分も速いペースで⾛っているのを⾒かけました。ジョグでも、そんなに速く脚を回さなければ強くはなれないんだと思い、⾃分も速いペースの⾼速ジョグをやってみようと思い⽴ちました。
そこから、ポイント練習の翌⽇に90分間のロングジョグを取り⼊るなど、⾃分⾃⾝を実験台として様々な強度のジョグに取り組むようになりました。
時には「今⽇は強度が⾼すぎた」などと反省することもありましたが、失敗と成功を繰り返しながら、次第に、その時々の状態に応じたジョグをしっかりと練習に組み⼊れられるようになっていきました。
現役選⼿だった頃のこうした⾃分⾃⾝の体験があって、指導者となった今も、ジョグを⼤切にしています。」

 

 坪⽥監督は現役時代にさまざまな⼯夫を凝らしながらジョグに取り組み、⼤学⻑距離界を代表する選⼿、そして、⽇本のトップランナーへと駆け上がっていった。

ジョグのすゝめ vol.01

フリージョグが⼀番難しい練習

 朝練習などで⾏っているフリージョグは、“フリー”と名の付く通り、⾛り⽅が⾃由。それだけに、選⼿は頭を使って⾛ることが求められる。

 

 「法政⼤学では朝練習にフリーで12キロのジョグをグラウンドで⾏うことが多いです。ジョグのペースは「キロ何分以上で」と指⽰することもありますが、基本的にはあまり指⽰していません。
  選⼿たちにもよく話していることですが、フリージョグって、実は⼀番難しい練習だと思っています。
あらかじめ時間や距離を決めていても、ペースが決まっていないので、⾃分の体調や⼒量、気象などの外的コンディションなどを考慮して⾛らなければなりません。また、脚づくりをするなら起伏のあるコースで、疲れているなら芝⽣など柔らかい路⾯で、と、コースの選択をする場⾯もあります。
そういった選択をちゃんと考えてできるかどうかは、試合前の調整にもつながってきます。
⼀⽅で“フリー”なので、⼿を抜いて⾛ることもできてしまいます。過去に指導した選⼿を⾒ても、ジョグを雑にする選⼿はうちでは強くなれないと思っています。
ジョグを⼤事にして、1、2年⽣でしっかり⼟台ができた選⼿は、3年⽣ぐらいになるとガラッと体つきが変わってきます。そうなると、質量ともにしっかりと練習をこなせるようになります。
⼤学卒業後に実業団で競技を続けて世界⼤会に⽻ばたいた選⼿たちも、学⽣時代にはジョグを⼤事にしていました。」

 

 法政⼤学からは近年、世界⼤会の⽇本代表選⼿をコンスタントに輩出している。そういった選⼿たちもジョグを⼤事にし、⼤学の4年間で地⼒を付け、社会⼈になって⾶躍を遂げた。

ジョグのすゝめ vol.01

“君たちはどう⾛るのか?”

 駅伝のメンバー選考には、もちろん試合での実績も考慮されるが、坪⽥監督は普段のジョグにも⽬を凝らしている。
指導者にとっても、選⼿たちがジョグに取り組む姿勢から得られる情報は多い。

 

「12キロのジョグをビルドアップで⾏うこともよくあります。ペースはキロ4分ぐらいから⼊りますが、どこまでペースを上げるかは各⾃に任せています。
“君たちはどう⾛るのか?”という彼らへの問いかけですね。
グラウンドで⾏うので、マネージャーが1000mごとのタイムを測っています。マネージャーは⼤変ですが……。
速い選⼿だとキロ3分10秒〜3分5秒まで上げる者もいます。
⼀⽅で、3分50秒ぐらいまでしか上げない者もいます。
あまり考えないで⾛っている選⼿も中にはいるかもしれませんが、彼らがどう取り組むかで、私の問いかけに対する答えが⾒えてきます。
この選⼿は状態が上がってきているな、などと分かりますし、逆に、明⽇の練習は注意して⾒てみようなどといった判断材料にもなります。

 

 ジョグと⼀⼝に⾔っても、本練習前後のウォーミングアップも、クールダウンもジョグです。私は、選⼿たちのダウンジョグを⾒るのが好きです。
  ポイント練習を終えてからの動き出しを⾒ていると、その選⼿にどれだけ余⼒があるのかが⾒えてきます。ポイント練習を設定通りにやり切ったとして、余⼒があれば、ダウンジョグをしっかりとテンポよく良いペースで⾛っていますが、⼀⽅で、余⼒がなかったらだらだらしたペースになってしまいます。
それぐらいはっきりとダウンジョグに差が出ます。ある意味スタミナ練習であり、きついなかでも体を動かせるどうかは、駅伝の最後の5キロの粘りにもつながるので、駅伝のメンバー選考の材料にもなります。」

 

 もちろんジョグが⼤事なのはトップランナーばかりではない。仕事や家事などをこなしながら競技に取り組む⼀般ランナーであればなおさらだろう。

 

 「⼀般ランナーの⽅は、なかなかトラックを使った練習をするのが難しく、普段の練習はおそらくジョグ中⼼だと思います。でも、ジョグはやり⽅次第で、何万とはいかなくても、かなりのバリエーションがあります。その⽇の体調次第では当然量を落とさなきゃいけない時もあれば、逆に、もっと⾛らなければいけない時だってある。ジョグさえしっかりできれば、⻑距離⾛者は強くなれると思っています。」

ジョグのすゝめ vol.01