『アイディアの否定はしない』チームワークが生んだ
“渾身の一着”

2020年1月発売の競泳用水着『GX・SONIC Ⅴ(ジーエックス ソニック ファイブ)』は、従来品(GX・SONIC Ⅳ)のパフォーマンスを超えるべく開発されました。競泳選手にとって水着は『武器』でありながら、時として『心の拠り所』にもなるといいます。今回は多くの競泳日本代表選手が着用する『GX・SONIC Ⅴ』の開発秘話をスイム企画開発チームのメンバーに聞きました。

敵はGX・SONICシリーズ前作にあり?!

――『GX・SONIC Ⅴ』の製品開発における役割を教えてください。

吉井 : 私は企画担当のソーシングという役割で、選手の要望や開発された新しいテクノロジーを製品プランとして実際のものづくりに落とし込む部分を担当しました。加えて今回は、大竹のような若手スタッフに私が培ってきた知見や技術を伝承する役割も担っています。

大竹 : 私も企画担当なのですが、ものづくり部分は吉井とともに取り組んできました。あとマーケティングや販促など、できた製品を世に出して行く部分の戦略を担当しました。ものづくりのキャリアが長い吉井から学ぶことは山のようにあります。

田中 : 新しい水着に搭載する機能や素材を研究開発する開発という役割を担当しています。私は男性用と女性用、両方の設計や開発を担当しました。商品化をめざして機能や素材の研究や新技術開発に取り組むのが、私たち開発の役割なんですよ。

白本 : 開発担当として田中をサポートしつつ、今回初めて女性用水着の設計・開発を担当しました。

――『GX・SONIC Ⅴ』の開発プロセスにおいて、最も高い壁は何でしたか。

大竹 : 私は、前作『GX・SONIC Ⅳ』の存在が最も高い壁でした。実は『GX・SONIC Ⅳ』開発の時も『GX・SONIC Ⅲ』の存在が壁だと思っていましたから。

吉井 : 『Ⅲ』までは課題解決型のものづくりでしたが、前作『Ⅳ』からは、市場はあんな機能、選手はこんな機能を搭載すれば満足するだろう、という予測のもとにものづくりを進めるプロダクトアウト型になり、それが非常に難しく高い壁でしたね。

田中 : GX・SONICシリーズは、いつも「次は何が“新しい?”」と考えるところから始まります。今作『GX・SONIC Ⅴ』は原点回帰の『速く泳ぐ』をテーマとし、“撥水”にフォーカスしようと決めました。撥水は生地に由来する部分が大きいので、担当する私にとっては、生地がなかなか仕上がらなかったのは大きな壁でしたね。

吉井 : 開発担当がギリギリまで試行錯誤を繰り返してくれるので、日程はいつも追い込まれてます(笑)

田中 : 今回は特にギリギリで…(笑)。その分『水の抵抗を下げて速く泳ぐ』という考え方に対して突き詰めることができた素材や技術を投入することができました。撥水性能によって水中で空気層を纏うような状態を作り出すことで、水着が軽く感じたり身体が浮くような感覚を実現できたんです。

白本 : 私は、今回女性用の開発をメインで担当したのですが、『GX・SONIC Ⅳ』のテストで20時間以上泳いだ検証がとても役に立ちました。競技をしていた学生時代に自分の実力ではできなかったのが、レースのスタートから腹圧を入れたままゴールすること。そんな現役時代やテストの時の感覚が、『GX・SONIC Ⅴ』の開発に生きましたね。だから、もし現役時代に『GX・SONIC Ⅴ』があれば、もっと速く泳げていた自信があるぐらいです(笑)

一番無理だと思ったデザインが最高の結果を生んだ

――今回、白本さんが担当された女性用は、腹部にクロスライン「SONIC LINE DESIGN-WX」のサポートが入っていますね。

白本 : 最初に氷上工場で5タイプほどを試作してもらって並べたのですが、このデザインの水着だけが着やすくて、着用時のシルエットも美しくて…。着た瞬間に「これだっ!」と思いました。

田中 : 着た瞬間の感覚は大事だよね。

吉井 : でも試作前のデザイン段階では、一番最初に「これは無理だろう」と思ったデザインでしたね。今までの経験から「お腹にクロスが浮き出るのはあり得ない」と思っていました。だから最初はクロスとは別のデザインで、同じ機能を実現できないかと意見しました。でも試作を着て選手たちが泳ぐと、機能的にも感覚的にも白本が発案したクロスデザインの評判が良くて。

田中 : 私は開発の立場なのでこういう意見を待っていたというか、私が「自分なら絶対やらないなぁ」と感じる、想像もつかないような彼女のアイデアを形にできたのは良かったですね(笑)

大竹 : 今まであまり取り組んでいなかった『上半身にベネフィットを』というアイデア自体、マーケティング的な立場からは色々と試したかったので良いなぁ、と思っていました。

白本 : お腹のクロスデザインこそが、私のイチ押しだったんです(笑)

田中 : 我々全員が「それいいね!」と一致しても、まだ設計案。実はここから「これをどう生産するか」という高い壁があるんですよ。生産工程をイメージしながら彼女のアイデアを見ていました。実際に、面白いアイデアだけど作れないものはたくさんある。しかし、今回は彼女の新鮮なアイデアがその『つくる壁』を越えた。我々が作り方まで考え過ぎて保守的になっているのかも…と、逆に気持ちが引き締まりましたよ。

白本 : 確かに生産部門からは「これ、スゴく大変だよ…」と言われましたね。

――試作を完成させていく段階での手応えはいかがでしたか?

白本 : 選手が着て泳ぐとタイムが上がったり、「練習ベストが出ました!」と言ってくれたり。本当に嬉しくて感動しました。

吉井 : 白本がいなかったら、この商品は生まれてないからね。

田中 : どんなアイデアも形にしてみないとわからない部分がありますから。形にして失敗だとわかることも大きな成果なんですよ。チームにとっても、白本自身にとっても良い経験になりました。

ものづくりにおける一番の近道は“良いものを作ること”

――チームでものづくりに取り組む上で、意識していることはありますか?

吉井 : 本人の前ではアイデアを絶対に否定しません。自分は違うと感じても「まずは形にしてみたら?」と伝えるようにしています。もちろん経験からある程度の推測はできますが、実際に失敗しないと納得して次に進めませんから。

白本 : 確かにやってダメなら理解と納得ができます。最後の最後まで自由にやらせてもらえている点は感謝しています。

吉井 : もちろん早く止めれば楽だし助かりますが、次のステップに気持ち良く進んで欲しい気持ちがあるので。

田中 : いつも生産部門には迷惑を掛けています。

大竹 : 我々は開発を信頼しているというか、企画の人間は口出ししない方が結果的に良いものができるんですよね。変な先入観で口出しして邪魔をしたくない。ある程度線を引き、出されたものは受け入れて全力で動くようにしています。結果的に「これは良いものです!」と自信を持って言えるものを作るのが、ものづくりの一番の近道だと思います。

――最後に『GX・SONIC Ⅴ』を着用する選手やユーザーの皆様にメッセージを。

大竹 : 『GX・SONIC Ⅴ』で、速い泳ぎを実感していただきたいですね。

田中 : まず手にした瞬間に喜んでいただき、さらに泳いで満足感と結果を得てもらえれば。そして「次もGX・SONICシリーズを買いたい」と思っていただけたら嬉しいです。

白本 : ぜひこの水着で自己ベストを出して欲しい。一緒に戦うパートナーとして「この水着を着ていたら大丈夫」という『お守り』のような存在になれれば嬉しいです。

吉井 : 今までで一番良い水着を作ったという自負があります。GX・SONICシリーズを着用する選手全員が、最高のパフォーマンスを出せると確信しています。

PRODUCT INTRODUCTION

GX・SONIC Ⅴ

体幹部サポート構造と撥水性能でフラット姿勢の維持力をアップ

水面近くで水面に対してフラットな姿勢をとることは、水の抵抗が少なく推進効率の良い泳ぎにつながります。『GX・SONIC Ⅴ』は従来のサポート構造に加え、女性モデルでは新サポート構造『SONIC LINE DESIGN -WX』を採用し、体幹部のサポート力をさらに向上。さらに、水着生地内部まで撥水剤を浸透させる新技術で撥水性能を向上させ、従来品よりも20%の水中重量軽量化に成功しました。
こうした軽量化やサポート力アップの新構造により、レース後半の疲労による腹部の落ち込みを抑制することでフラット姿勢を維持。スイマーのさらなる速さの追求に応えます。

※男子モデルとの比較