選手の勝利を支えるジャンプスーツが築いた『信頼』が力になる

ウインタースポーツの中でも人気種目のひとつ、スキージャンプ。ミズノはスキージャンプに欠かせないジャンプスーツのサプライヤーとして選手とともに戦っています。選手の窓口となる販促担当の尾形優也は、これまで長きに渡り同窓口を担当してきた小田正紀の後を引き継ぎ、選手とものづくりの現場の橋渡し役を担っています。ミズノ製ジャンプスーツを提供しながら日本代表を支えてきた小田は、尾形に引き継ぐ際にどんな「想い」を伝えたかったのか。ふたりに語りあってもらいました。

“選手を支える側”も選手同様に戦っていることを知った

――ふたりとも元スキージャンプ選手なんですね。尾形さんは、選手時代から小田さんや現在の担当業務の内容を知っていましたか。

尾形 : スキージャンプ選手の間では「ミズノの小田さん」といえば、「日本のトップ選手のスーツを担当している人」として有名な存在なんですよ。私自身はトップ選手ではなかったので、雲の上の存在でしたけど(笑)

小田 : いやいや、そんなことないよ(笑)

尾形 : 選手時代から販促担当の業務をなんとなくわかっていたつもりですが、私はトップ選手ではなかったので当初は「トップ選手ときちんと仕事ができるのか」というプレッシャーがありました。でも実際には、選手と同様にスーツスタッフも厳しいルールの中で戦っていることを知り、プレッシャーを感じている場合ではないという感覚が芽生えました。また、実際に担当してみて、選手の手にスーツが届くまでの手間の多さにも驚かされました。

――業務を受け継ぐ際、どんなことを教わりましたか。

尾形 : コロナ禍で直接会って引き継ぐことができなかったので、手取り足取り教わることはありませんでしたが、結果的にはそれで良かったかな、と。手取り足取り教わってしまうと、それは『小田の仕事』であって『尾形の仕事』ではないんですよね。リモートでの引き継ぎの際も、はじめから詳細を教わることがなかったのですが、それは、まずは『尾形の仕事』として自分で考えさせるための時間をくださったのだと今では感じています。

――今、一人で業務を担当していますが、小田さんの存在を感じるシーンはありますか。

尾形 : もちろんです。選手のミズノに対する信頼感の高さはもちろんですが、ジャンプ台施設など関連する方々もミズノに対してとても好意的なんです。さらに、小田の人脈や経験は世界中に広がっているようで、2021年のドイツ大会ではコロナ禍で連盟からの書類がないと入国できない中、困り果てて小田に相談するとすぐに書類が手元に届いたんです。小田が積み重ねた信頼や経験に助けてもらう機会は、まだまだ多いです。

小田 : 尾形は小林選手や高梨選手と同世代という、私にはない若さを持っています。私はもうこの仕事を30年近くやってきて、選手との間に世代間のギャップも感じはじめていたので、ちょうど良いタイミングでした。選手とのコミュニケーションは、私よりはるかに上手ですよ(笑)

ミズノのウエアを着て優勝してほしいという想いが原動力

――尾形さんに引き継ぐ中で、「これだけは大切にしてほしい」と考えながら引き継いだ「想い」のようなものはありますか。

小田 : やはりいかに黒子に徹するか、ですね。選手が安心してスタートラインに立つための環境づくりが我々の最大の役目だという点です。しかも、日の丸を背負った選手を支えるわけですから、その重さをしっかり感じてほしいな、と思います。

――尾形さんに引き継いだ今、改めて振り返ってみて、小田さんの経歴の中で一番大変だったことは何でしたか。

小田 : 2011年あたりから、連盟や国とともにオールジャパン体制でジャンプスーツを開発していた頃ですね。スキージャンプを国技とする国を相手に、ヨーロッパ中を転戦する選手と一緒に移動しながら、何でも一人でやらなければならない状況で…。寝る間を惜しんでジャンプスーツと格闘してました。最大で何日徹夜したかなぁ(笑)

――国技となると、国の威信が掛かっているんですね。

小田 : そうです。ミズノの技術を高めるのはもちろんですが、それ以上に情報戦なんです。間違った情報に振り回された結果、技術的な遅れを生んでしまうことも珍しくありません。近年は情報戦に負けないよう、連盟と連携して常に最新の情報を得られる体制で臨んでいます。そのぐらい情報戦が熾烈なんです。

――日本チームが勝つために、小田さんがそこまで考えたり、提案したり、行動したりする原動力は何ですか。

小田 : それはひとえに、日本人選手にミズノのウエアを着て優勝してほしいという想いがあるからです。でも、今の私のアナログ的な手法や今までと同じ考え方じゃちょっと難しいのかな、と。そこで、世代交代や新陳代謝を高めるという意味も含めて、若いエネルギーに満ちた尾形に引き継ぐことで、これまでの体制や考え方をリセットしようと考えました。

『信頼』が我々の力となり、選手の心を支える

――小田さんの凄さを実感する機会はありますか。

尾形 : いつも実感しています。例えば、良いアイデアを思いついて「これやってみたいです」と小田に話したら、たいてい「それ、○年前にやったなぁ」という答えが返ってきて(笑)。本当にやっていないことがないと思うぐらい凄いんですよ…でもやっぱり悔しいんですよ、私も。だから、一人では無理なのでチームでコミュニケーションを取りながら一緒に考えることで、小田を超えてやろうという気持ちです。

小田 : そうそう。それがいわゆる相乗効果というやつですよ(笑)

――いつか尾形さんが後輩に引き継ぐ時、小田さんから学んだことの中で、尾形さんが後輩に伝えたい「想い」はどんなものですか。

尾形 : 選手に信頼してもらえるスーツを提供するということですね。ジャンプはメンタルに左右されるスポーツなので、スタートの時「このスーツだから私は飛べるんだ」と選手に思ってもらうことが大事なんです。そのために小田は選手から信頼してもらえるよう常に会場に足を運んでいましたし、そのための努力は惜しまない姿勢を貫いていました。「あの人のスーツなら信頼できる」と思ってもらうことが大事なんだ、ということが小田からもヒシヒシと伝わってきましたし、私も後輩ができた時には伝えたいですね。