支えてくれた方々への感謝を胸に、すべてをアーチェリーのために捧げる日々を送る

パラアーチェリー選手
永野 美穂 Miho Nagano(大同生命)

嘆くよりも、明るい未来を思い描く

病で自由を失った左手の代わりに、口で弦を引き、50m離れた的に矢を放つ。2012年のロンドンで5位入賞、2018年のヨーロッパカップでは男女ペアのコンパウンドMIXで優勝を果たすなど、数多くの実績を残してきた永野選手。26歳で始めたアーチェリーの競技人生では、思うような結果が出ないときも、「言い訳しない」ことを自らに課してきたそうです。
「言い訳をしている間は、選手としても、人としても、成長できません。上に行けば行くほど、厳しい世界。言い訳するくらいなら練習すべきだと思っています。練習で自信を付ければ本番にも集中して臨めるので、自ずと良い結果が出るはずです」
競技人生のスタートから、永野選手には壁が立ちはだかったとも言えます。競技を始めた頃は、口で弦を引いてもほとんど矢が飛ばなかったそう。文字通り一歩一歩努力を積み重ねてきました。
「病気で左手が動かなくなったのは確かに残念ですが、不自由のない状態を羨んでいてもしょうがないし、少しでも明るい未来を思い描けるなら、しっかり向き合って努力するほうがいい。そう気付けたことで私の人生は変わり始め、今につながっていると思います」
今できることを精一杯やる。そう心に決めた永野選手は、早朝から夜まで毎日練習を続け、絶え間ない努力を重ねることで、国内トップクラスの選手へと成長を遂げました。
そして、永野選手が何度も口にしたのは、周囲の方々への感謝の気持ち。これまでアーチェリーを続けて来られたのは、支えてくれた人や応援してくれた人の存在があるからだと、永野選手は言います。
「本当に私は、人に恵まれてきたと思います。初めてアーチェリーを見学したときに、『気になるなら一度やってみない?』と声をかけてくれた施設の方や、アーチェリーに本格的に挑戦するのを後押ししてくれた地元のクラブの会長など、さまざまな方々の支援がなければ、ここまで続けることはできなかったはずです。私ほど周りの方々に恵まれた人はいないと、本気で思っています」

「オフの日」をつくらないアーチェリー漬けの日々

アーチェリーは集中力を要求される競技。精神的な疲れも蓄積されそうですが、永野選手は「オフの日はない」と言います。
「アーチェリーは感覚がとても重要な競技です。一日練習を休むとその感覚が鈍ってしまい、取り戻すのに時間がかかってしまいます。『やっぱり休まなければ良かった』と後悔したくないから、基本的には休みません」
食事や睡眠にも気を配り、生活のすべてがアーチェリー中心となっている永野選手。アーチェリーの大会などで日本全国を訪れる日々ですが、用具を持っての電車移動は困難です。そのため、用具を積んだ車を長距離運転して全国を転戦しているそうで、取材時も名古屋から東京までの車移動の直後でした。「趣味もアーチェリー」と断言するその表情からも、「アーチェリーのためなら、なんでもする」という強い決意が伝わってきます。
「あえてオフを言うなら、出社している時間ですね(笑)。2017年2月に現在の会社(大同生命)に入社したのですが、周りの方々があたたかく応援してくださいますし、いつも和やかな雰囲気でリラックスすることができます」
また、永野選手はアーチェリーを通しての出会いを大切にしており、アーチェリー仲間と積極的にコミュニケーションを取っています。
「老若男女関係なく、障害があっても楽しめるのがアーチェリーの魅力です。そのため、アーチェリーを通して、小学生から80代まで幅広い年齢層の方とお会いし、お話しすることができます。アーチェリー談義なら、半日でもずっと話せますね(笑)」
永野選手が目指すのは、2021年の東京で世界の頂点に立つこと。今までの大会とは異なる、一層強い想いがあると言います。
「やっぱり独特の緊張感がありますし、自国開催ということでお世話になった方々に見に来ていただけるチャンスです。しっかり練習し、自信を持って大会に臨みたいと思います」

REACH BEYOND PHILOSOPHY

「九転十起」

前向きになることで、思いもしない道が拓けた

さまざまな困難を乗り越えてきた永野選手。以前の座右の銘は「七転び八起き」だったそうです。「大同生命に入社して、創業者の広岡浅子さんが座右の銘としていた『九転十起』を知って。『七転び八起き』よりも、さらに上があるんだと驚きました(笑)」。自分が置かれた境遇で一つひとつ努力を重ね、前向きに過ごしてきたことで、人生が大きく変わったと永野選手は言います。「自分の不遇を嘆くのではなく、『できること』に目を向けて努力することで、予想もしなかった未来が待っていましたね。スポーツの日本代表選手になるなんて、私は夢にも思っていませんでしたから(笑)」