KICKS & ECHO vol.4 | upcoming artist ARTIST Ryosuke Misawa
2026.04.20 INTERVIEW

KICKS & ECHO vol.4 | upcoming artist
ARTIST Ryosuke Misawa

グラデーションのように変わり続ける

光や色彩をテーマにした作品を発表し、国内外で活動の場を広げる注目の美術家・三澤亮介。写真から絵画へと表現を移行しながら、独自の制作方法と思想を築いてきた彼が、まるでグラデーションのように変化し続けている創作の歩みについて語る。
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社会との接続の先に自分の作品がある

――アーティストとしての活動に至るまでの最初の一歩、表現の世界に興味を持ったきっかけを教えてください。
幼い頃から絵を描くことは好きでした。ただ、ずっと描き続けてきたというわけではなく、流れの中で自然と今の自分にたどり着いたという感覚です。アートの世界に踏み込む前には、写真家として活動していました。写真作品を作っていく過程で、デジタルツールを使って絵を描くようになり、その流れの中でもう少しフィジカルなものを作りたい、と思ったことがアーティストを志すきっかけになりました。
――写真から絵へ、自然に移行していったのでしょうか。
そうですね、まるでグラデーションのような感じで自然に移り変わっていきました。“変容”という部分では、今もまだその大きな流れの途中に自分がいると思っています。これからも変わり続けていくと思いますが、同時にアート活動はずっと続けていくつもりです。
――表現としての作品と仕事としてのアート、そのバランスについてはどのように考えていますか。
活動において100%自分の好きなものだけを描いているわけでもないですし、仕事としての側面も持ち合わせているので、明確にするのが難しい部分です。でも、自分がこの時代にいて、社会とどう接続しているのか、その中で作品がどう存在するのか。そういった考えの先にこそ、自分が思う作品の存在がある気がしています。趣味のような感覚でただ楽しく描く日もありますが、そのときはクオリティのことなどは考えず、とにかく自由に描きます。
――自由に描く作品と、発表する作品ではどんな違いがありますか?
作品として表に出すときは、自分の中にかなりシビアな基準があります。自分の想定を超えてこない作品は出さないようにしていますし、そのラインは明確に分けています。絵の具や色彩の世界はとても奥深く、多くの画家が「絵の具には宇宙のような深さがある」と言いますが、自分も制作を続ける中で、それに近い感覚を少しずつ感じるようになりました。ただ、あまりその深いところに入りすぎると、自分をコントロールできなくなるような感覚もあって、怖くなることも。自由に描く絵は、ある意味その深いところまで入り込んでしまうこともありますが、作品として発表する場合は、人に見せられる形にしなければいけない。深く潜ることと、作品として成立させること、そのバランスがとても大事だと思います。
――海外での展示も行っていますが、日本との違いを感じることはありますか。
海外での活動はまだ挑戦の途中ですが、国や地域によってマーケットの違いはあるものの、「なぜそれをやるのか」「なぜその手法なのか」「どのレベルで作品を出しているのか」といった部分を問われる点は共通していると感じています。自分の作品のどこが評価されるべきなのか、何が新しく、どこに優位性があるのかを、作品だけでなく言葉でも説明することを求められることが多く、それが作品を発表する立場としての責任であり、まだ自分に足りていない部分だと実感することが多いです。語学力や発信の仕方については、今後もっとシャープにしていきたいと思っています。
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誠実じゃないと、まっすぐな線は引けない

――作品における三澤さんらしさ、についてご自身ではどう分析しますか?
色彩とグラデーションです。まずは「きれいだな」と感じてもらうところから作品に入ってもらえたら、と思っています。人から作品に対して言われて嬉しかったのは「誠実な感じがする」という言葉。自分自身、最初から誠実な人間だったわけではありませんが、年を重ねていく中で少しずつ誠実になろうと向き合ってきました。大げさに聞こえるかもしれませんが、誠実じゃないとまっすぐな線は引けないんです。自分が求めているクオリティに到達するには、内面に対しても丁寧に向き合い続けないといけないと思います。
――制作の手法やアプローチについても教えてください。
技術的な話をすると、自分の作品は、美術の教科書の最初のページにあるような、光や影、グラデーションといった基礎的な要素を、ひたすら深く掘り下げているだけとも言えます。でも自分は、そこに美学を感じていて。基礎の部分を突き詰めていくことで、別の場所にたどり着けるというか。実際に色彩はセオリーというより、キャンバスとの対話の中で決まっていくものだと思います。想像している色、実際に作る色、キャンバスに乗った色はすべて違って見えるので、その反応を見ながら制作しています。写真や映像をやっていた経験も、そうした考え方に影響していると思います。
――色彩のインスピレーションはどこから生まれるのでしょうか。
最初に大まかな方向性を決めて、写真などをデジタル上で分解し、ラフのような形を作ります。それをさらに光のレベルまで分解して、キャンバスに落とし込んでいくことが多いです。ただ、実際に描き始めると、天候や作品のサイズ、その日の感覚によって色は変わっていくので、最終的には感覚に近い部分も大きいと思います。色彩は音楽にも重なる部分があると感じていて、制作の段階によって聴く音楽も変えています。例えばグラデーションを決めるときに聴く曲、全体の色のバランスを決めるときに聴く曲というように、自分の中で分けています。
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――ご自身の人生の転機はいつだったと思いますか?
アートを始めたことです。最初は本当にうまくいかなくて、1年くらいは地獄のような感じでした。自分が想像しているものの0.1%くらいしか描けなくて。でも、日々少しずつできるようになることが嬉しくて、その積み重ねだったと思います。大きな目標があったというより、昨日より少しできた、ということの繰り返しでした。
――制作中、心が折れそうになった時はどうやって乗り越えますか?
うまく描けない時は強い絶望を感じます。でも折れるというより、立ち止まるという感覚に近いです。納得いかない部分は何十回もやり直します。実際に昨日も同じ場所を7時間描き続けていました。結局は終わるまでやるしかない、と思います。自分が納得しないと先には進めないので。

――表現者として最も大切にしている価値観は何ですか?

最も大切にしているのは、美しいと思えるかどうかです。自分の中にその基準がないと、作品は作れないと思っています。なので、その感覚が鈍らないように、本を読んだり、音楽を聴いたり、日常の景色や自然を見るなど、自分がいいと思うものを摂取する時間を大切にしています。

――美しさの感覚につながっている原風景はありますか?

子どもの頃に見た光の記憶は、自分の中の美しさの原点になっていると思います。上京して初めて一人暮らしをしたアパートの部屋に差し込んでいた光も、印象に残っています。現在のアトリエを探すときは、その当時の記憶を頼りに光の入り方や部屋の空気感のようなものを重視して選びました。
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アートに触れるきっかけをつくりたい

――制作時のファッションについてもお聞きしたいです。
基本的には黒い服が多いです。尊敬しているアーティストの方がスーツなどきちんとした格好で制作している姿に憧れがあるので、自分も動きやすさはありつつ、少しフォーマルな雰囲気を意識した服装で制作することが多いです。そして制作時には、エプロンが欠かせません。無意識に手や筆をエプロンで拭いてしまう癖があり、絵の具が固まっていくと重くて動きづらくなるので、そのタイミングで新しいものに替えています。

――靴やスニーカーにもこだわりはありますか?

座って絵を描くことができないので、基本的にずっと立って描いています。制作中はキャンバスの前で体重移動をしながら描くので、体の動きがスムーズにできて滑りにくい靴が理想的です。腕だけで描くのではなく、体全体を使って描くので、足元はすごく大事だと思っています。

――これからの活動や、次に目指しているステップを教えてください。

日々いろいろ考えたり悩んだりしながら絵を描いていますが、作品を見る人には、難しく考えるというより、ただシンプルに楽しんでもらえたらいいなと思っています。自分の絵が、世界の美しさに少しでも気付くきっかけになったり、ふと立ち止まる時間を作れたりしたら嬉しいです。

ありがたいことに、これまで駅やホテル、商業施設など、公共の空間に作品を設置する機会に多く恵まれてきました。キャンバスの作品を制作することが自分のベースであり、そこが根幹にあることはこれからも変わりませんが、それを社会の中で共有されるものとして広げていく、公共空間の中に作品を置いていくようなプロジェクトにも、今後さらに関わっていきたいです。自分の作品に普段あまり触れる機会のない人が、偶然作品を目にして、アートに触れるきっかけになるような、そういう場をこれからも作っていけたらいいなと思っています。
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PROFILE
三澤亮介
1992年、福井県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。東京を拠点に活動する美術家。不可視の光を主題に、ペインティング(絵画)を中心とした作品を制作している。近年はヨーロッパやアジア圏でも個展を開催するほか、都市や公共空間を舞台としたアートプロジェクトにも多数参加。主な受賞歴に、東急主催「LIFE LAND SHIBUYA AWARD」遠山正道審査員特別賞、「第4回枕崎市国際芸術賞展」(鹿児島県美術館主催)入選などがある。

-KICKS & ECHO by Mizuno- アーティストやクリエイターと共に“静かな情熱”を記録し、文化としてのMizunoを育てていくカルチャープロジェクト。

Creative Direction: Riza Fujimoto
Photography: Daehyun Im
Interview: Asa Takeuchi
Edit: Akiko Tomita
Production: Me&Co

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