フローリスト

越智康貴さん

旅とは、

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友人の言葉をきっかけに、 初めての旅へ。

二十代の終わりに初めての海外旅行で台湾に行くまで、実は海外はおろか国内も含めて、全然旅というものをしたことがありませんでした。というのも、今の仕事を始めたのが21歳で、初めてお店を持ったのが22歳。今の表参道ヒルズに入る前に洋服屋さんの中で運営していたお店なんですが、そこでの仕事が始まっていて、もう本当にずっと働きっぱなしでした。だから外に出かける暇があんまりなくて。そういう日々を送っていた中である時、仲の良い友達から「外に出てもっとたくさんいろんなもの見た方がいい」って言われたんです。今こうして言葉にすると陳腐な感じに聞こえてしまうかもしれないですが、その時の自分の心にはすごく響く感じでそれを言ってくれて。それで、その友達と一緒に台湾に行ったのが僕にとっての初めての旅でした。 現地に着いてから、ホテルの部屋に飾るために蓮の花を買ったんですが、蓮って日本で買うと全然咲かないんですよ。蕾の状態で売られていて蕾のまま使うことが多いんですが、台湾で買った蓮は飾っていたら綺麗に咲いたんです。それにはすごく感動しましたね。咲かせるための栄養がきちんと蓄えられた育て方で出荷されていたんだと思うんですが、売り方も日本とは違っていました。一見ただビニールに包まれているだけなんですが、渡される時に柄杓に水を汲んで上からジャーってその袋の中に入れたんですよ。ちゃんと漏れてこないようになっていて、茎の留め具に水が入っている状態で渡されたんです。それも結構カルチャーショックでしたね。そういうふうに旅先では草花の植生的な違いと文化的な違いに対して視点を持つことも結構ありますね。

シームレスにつながっている。

それからはアジアやヨーロッパなど、いろんなところへ行きましたが、どの旅もおおよそ仕事との関わりがあります。最初に行った台湾はあまり仕事という感じではなかったんですが、一昨年DONADONA Tokyoという雑貨屋さんを始めたのでその買い付けのためにベトナムやフランス、メキシコにも行きましたし、今では結構仕事が目的で行くことが多いですね。なので、どちらの比重が大きいかという話ではなく、自分の中で旅と仕事はあまり切り離されていない存在です。仕事の延長線上に旅があるし、旅の延長線上に仕事がある。大きく言えば、全てのことが仕事につながっていくし、逆に言えば今は仕事というものが旅も含めた自分の生き方そのものになっているとも感じます。

普段の自分の感覚からうまく距離をとる。

ただ、そういう生き方の中でずっと東京で暮らしていると、いろんな物事に対して何でも「東京感覚」で考えてしまいがちになるんです。たとえば政治だったり環境だったり、そういう身近にある社会的な問題に関してもそうだし、文章を書く、写真を撮る、花を生けるとか、何でもいいんですけど、何かに向き合おうとした時に東京にずっといると、無意識的に東京感覚の物事の考え方になっているんですよね。でもそういう時に日常の外に行くことで、別に遠く離れた外国に行かなくても、たとえば国内の地方の街を歩いているだけでも東京感覚というものから離れることができます。「ここにいる人たちに自分の考えを伝えるにはどういう方法があるだろう?むしろ今自分が考えていることって東京をベースに活動しているからこその発想なんじゃないか?そもそも花を生けるって何だっけ?人ってなんだっけ?人にアプローチするにはどうしたらいいんだっけ?」みたいに、普段の自分の感覚からうまく距離をとって原点の問いに立ち戻ることができるという役割を旅は持っている気がします。

たとえ記憶していなくても、
とにかくものを見て、体験したい。

南仏に行った時の話なんですが、宿の近くの小さなファッションモールでコーヒーを飲んでいたんです。ひと息ついてモールを出たら、ふと視界に入ってきた夕陽がすごくきれいで。フランスの街ではBIRDという電動キックボードのシェア・サービスが普及しているんですが、一緒にいた友達と「夕陽が差してるね。海の方向だ。」って、すぐに二人でキックボードに乗って海に向かって走り出しました。20分くらい走って海辺に着いた頃にはもう結構暗くなっていて、本当に日没ギリギリのところだったんですけど、そういう日本にはない文化を体感しながら辿り着いた景色は空の色もやっぱり全然違うし、空気や光の見え方も感じ方もすべてが違ってて、目に入る何もかもがすごく詩的に感じられました。その行動自体も何か予定を決めていたわけでもなく、たまたまコーヒーを飲んで外に出たら夕陽がきれいだったから海へと足が向いて、そのままなんとなく日が落ちるまで浜辺を散歩してっていう、ただそれだけのこと。でも、そういう何気ない時間が印象に残っているんですよね。具体的に何かをしていたとか特別なエピソードがあるわけじゃないんですが、その時に感じた普段とは違うひとつひとつの感覚みたいなものが残っている。僕はどちらかと言えばすぐに忘れてしまう方なんですが、そういう感覚とか記憶って、意識してなかったタイミングで不意に思い出したりするじゃないですか。だからきっとそれは忘れているんじゃなくて、記憶のレイヤーの中のどこかに確かにあって、何かのきっかけで時折思い出すってだけのことだと思うんです。そしてそれが何かを考えたり生み出したりする時の役に立ったりもする。だから僕はたとえそれを記憶していなくても、とにかくものを見て体験するということを大事にしたいです。人は欲張りだから全部おぼえていないともったいないと思いがちなんですけど、ふとした瞬間に「この香り嗅いだことあるな」とか思い出せるだけで本当は十分なんだなって思います。僕の仕事は花も文章も写真も、生きているすべての中で自分が何か感じたことを最終的にアウトプットすることなので、そういう形のないものをひとつひとつ集めて自分の中に積み重ねていきたいです。

表参道ヒルズのフラワーショップ「DILIGENCE PARLOUR(ディリジェンスパーラー)」オーナー。イベントや店舗の装花、雑誌・広告撮影のスタイリングなどフローリストを本業としながら、雑誌での執筆活動も行うなど多方面で活躍中。

越智康貴さんの旅の必需品

僕にとっては写真も自分を構成する大事な要素のひとつなので、カメラは常に手放せません。鏡に映った友人、花、気になった可愛いもの、街の人・・・いろいろなものを脊髄反射的に写真に収めます。旅先のホテルの部屋には必ず現地で買った花を飾るので、花を生ける時のためにハサミも持っていきます。

僕は旅の荷物が本当に少なくてリュック1つでどこへでも行くので、このコンパクトシリーズは自分の旅のスタイルともすごく親和性が高いと思いました。買い付けでスーツケースを持って行く時も、旅先で買った花瓶や雑貨を入れて持ち帰るためになるべくスペースは空けておきたいので、こんなふうに小さく軽くまとめて持ち歩ける点はうれしいですね。

旅先でいちばん見たかったのは、
いつもよりアクティブになった私でした。

旅の服を選ぶことは、旅に連れていきたい自分を選ぶこと。
心地いい服は、どんなガイドブックよりも私を連れ出してくれる。
行ったことのない場所、見たことのない景色。
そこで出会えるのは、いつもより、少しアクティブになった自分。
新しい出会いは、日常の一歩先で待っている。
さあ、出かけよう。
きょうは、どんな一日になるだろう。

遊べる大人の、トラベルウエア。