元ノルディックスキー複合日本代表

 

荻原次晴さん

旅とは、

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旅が苦痛だった選手時代

各地を転戦していた現役のころ、旅というのは、そこに競技にしにいくだけの移動に過ぎませんでした。車にしろ飛行機にしろ、移動って座っているだけだから一見すると休憩時間のようだけど、実際は非常に疲れるんですよね。しかも、スキージャンプとクロスカントリー、ふたつのスキースタイルをやっていたから、荷物がとりわけ多い。まず長さ2.5mほどもあるジャンプの板は、2台持つでしょう。で、クロスカントリーのレース用の板は約2mあって、遠征先のコンディションに合わせてスペアを10台くらい持っていく。クロスカントリーのポールなんてカーボンシャフトで非常にデリケートにできていますから、梱包だってものすごく気を使います。あのころは移動中にしろ、現地で滞在するにしろ、旅で何か楽しんだという記憶はないどころか、ものすごく面倒だわ、疲れるわで、全然好きではありませんでした。
いま思えば、それは僕が未熟だったから。もう少し精神的に余裕をもっていれば、空き時間で観光だってできたかもしれない。せっかく機会を得ていながら、ずいぶんもったいないことをしたなって思います。だからその反省を踏まえていまの若い選手たちには、スキーを一所懸命やるのはもちろんだけど、世界転戦したときには方々に出かけて見識を広げてくれと伝えています。観光名所じゃなくても、地元の人たちの暮らしが見えるスーパーに行くとかだっていい。いろいろ見ておけば、引退後に何かと活きてくるんだよ、なんて偉そうに言っていますけど、なにぶん、自分ができなかったからね。

引退後に俄然目覚めた旅への欲求。

引退してから何を始めたかというと、まず日本を知ることが必要だと思ったんですね。というのも僕、世界中あちこち行っていたのに、自国のことを知らなすぎたんです。ヨーロッパでレースが終わって、向こうの選手たちと飲んだりすると、俺たちの国にはこんな歴史がある、日本では昔こんなことがあったよねって、熱く語るんですよ。僕は知ってるふりをして話を合わせてましたけど(笑)、歴史のことも政治のことも、ろくすっぽ知らなかった。いい大人で、日の丸までつけていたのに。それが恥ずかしかったんですよね。
だからまずは日本のことを勉強しようと思って、手始めに京都や奈良をめぐる旅をしました。それがすごくおもしろくて、すっかり目覚めちゃった。自力で宿の手配をすることさえ、僕には新鮮でした。これまでは、誰かが手配してくれて、連れていってもらうばかりでしたから。だからずいぶん、旅に対する意識は変わりましたよね。



旅とは、シンプルに味わう学びである。

若いころは、頭は柔らかかったはずだけど、学びたい姿勢がなかったから何も入ってこなかった(笑)。でも引退後、日本を学びたいと思ったときに、頭のなかがスポンジみたいになって、ギューッと吸い込んでいるのがわかって、快感でした。学びに年齢なんて関係ないですよね。
だから僕にとって旅というのは、学びです。逆にいうと、何かを学ばないことには、旅はおもしろくない。それは何も難しいことじゃなくてよくて、ただおいしいものを食べるってことでもいいんです。東京にいると世界中のあらゆるものが食べられる気がしちゃうけど、実際にはそんなことはなくて。だから旅先で、世の中にはこんなにうまいものがあるんだなって知るだけでもいい。むしろ、あれもこれもってあんまり詰め込みすぎないほうがいいんじゃないでしょうか。登山でいうピークハントのように、ただ数をこなすみたいになっちゃうと、じっくり味わえないような気がします。いまはネットでなんでも調べることができて便利な反面、情報を詰め込みすぎちゃうきらいもありますね。帰ってきて、あれ? 結局何してきたんだっけ、みたいになっちゃうのは残念です。ひとつの山を大切に登るようにして、根室に行って蟹を食べようとか、そのくらいシンプルでいいのかなと思います。

旅を通じて日本を知る。
親から受け取り、子へつなぐ。

いまはもっぱら日本の百名山への挑戦に情熱を注いでいます。もともと僕、子どものころは、両親に連れられて山歩きをしていたんです。親父は2,000くらいの山に登頂していて。84歳ですが、いまも登ってます。そういう山好きの親父のもとで育ったのも影響して、引退後、再び山を歩くようになりました。親父ががんばって歩いた山道をせがれが歩かないっていうのはどうなんだとか、親父と山の話を肴に飲みたいとか、そんな気持ちもありますけど、純粋に、元気なうちに日本のすばらしい場所にたくさん出かけたい。もちろん、山以外でもね。
 独身のころは、旅先でみやげ物屋を覗くなんてこと、まずなかったんですけども。いまは、旅へ行ったら現地の定番みやげを必ず買うようにしています。そうすると、北海道は海の幸が豊かで、九州はラーメンが名産なんだなとかって、おみやげを通じて子どもたちに日本を感じてもらえるんじゃないかと思って。昔ながらの、ここへ行ったらこれ!みたいな伝統的なご当地ものってありますよね。そういう、ど定番ものを買ってくるのが、父親としての役目かな、と。子どもたちにしてみれば、いまどきの商品のほうが気に入るのかもしれないけれど、これもひとつの教育=学びになるのかな、なんて思っているんです。

1969年、群馬県生まれ。スキー・ノルディック複合元選手。1995年、世界選手権団体戦で金メダルを獲得。1998年、長野オリンピックに出場し入賞を果す。引退後はスポーツキャスター、コメンテーターとして活動中。また、ライフワークとして登山にも精力的に取り組んでいる。

荻原次晴さんの旅の必需品

いざというときに役立つグッズで、ラインナップは昔から変わりません。身軽でいたいから荷物は最低限を心がけていますが、腕時計だけは別。日替わりで身につけたいので、旅にはつねに3~4本持っていきます。

MIZUNOというとばりばりのスポーツウェアっていうイメージでしたけど、Go toはおしゃれでいいですね。でも動きやすさなど、快適性は損なわれていないのはさすが。僕にとって服っていうのは、登山やサーフィンをやっていることもあって、あまりいろいろ工夫して着込むっていうよりは、気負わず、シンプルにさらっと着られるのがいい。だから打ってつけです。

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世界各地の自然や文化、暮らしのなかから生まれるストーリーを独自の視点で編集する「地上で読む機内誌」。表紙のダイマクションマップが表現するように、ひとつの連なる世界を意識し、さまざまな土地の豊かな物語を紡いでいくメディアです。2002年創刊。

 

 

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旅先でいちばん見たかったのは、
いつもよりアクティブになった私でした。

旅の服を選ぶことは、旅に連れていきたい自分を選ぶこと。
心地いい服は、どんなガイドブックよりも私を連れ出してくれる。
行ったことのない場所、見たことのない景色。
そこで出会えるのは、いつもより、少しアクティブになった自分。
新しい出会いは、日常の一歩先で待っている。
さあ、出かけよう。
きょうは、どんな一日になるだろう。

遊べる大人の、トラベルウエア。