アートディレクター/イラストレーター

ジェリー鵜飼さん

旅とは、

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一人で歩く時間を求めて、 山へ行く。

僕にとっては、旅といえば山。時間を作って「さあ旅に行くぞ」って感じで、どこかへ行くとなると、行き先は山がメインです。誰かと一緒に行くこともありますけど、やっぱり理想的なのは一人ですね。だから、なるべく一人で行ける時間を作って行くようにしています。誰かと一緒だと、たとえば、歩くペースとか、どのタイミングで食事するかとか、ある程度合わせなきゃいけないけど、一人だと自分のコンディションやテンションに従って、もっとずんずん歩きたいなって時に全部自分のペースで行けるのが最大の魅力です。誰かと一緒に時間を共有しながら歩くのも、それはそれでいい旅になるんですけど、一人で集中して歩くことに没頭する時間のようなものを求めて山に行く部分も大きいのかもしれません。

寂しくて怖い、貴重な時間。

山に行くときに、大事にしていることがもうひとつあって、一人でいると、すごく寂しいし怖いんですよ。でも、僕はその時間がすごく貴重だと思っていて。 僕が22歳くらいのときに、細野晴臣さんが「ビジョン・クエスト」というネイティブ・アメリカンの儀式を受けているのをテレビで観たんです。一人ぼっちで山の中へ入って、誰とも会わずに数日間過ごすという、ある種修行のような儀式なんですけど、その時の細野さんの話がすごく印象に残っていて、「昔はみんな人間って、栄養が足りなくて兄弟が死んだりとか、戦争で家族を亡くしたりとか、そういう辛い思いを子供の時にたくさん経験して、通過して、やっと大人になった時に一人前になるんだけど、今はみんな辛い思いをしないまま大人になってしまうから、いざ辛い経験をした時に大人が対処できなくなっている」と。だからその儀式みたいな、ものすごく寂しくて、怖くて、辛い時間を過ごす経験を、現代人はやっておいたほうがいいみたいなことを話していて、ああ、やっぱり一人で寂しい経験っていうのは、人間にとって必要なことなんだなと感じたんです。だから僕にとって、一人で山に入って、そこで起きることを自分で考えて処理しながら過ごす時間っていうのは、すごく大切な時間として捉えています。

やらなきゃいけないことを排除して、
やりたいことに集中する。

僕は普段、装備の身軽さを追求する「ウルトラライト・ハイキング」というスタイルで旅をしているんですが、今からちょうど1年前に、すごく長い距離を一人で歩く旅をしたんです。普通、長距離の旅はテント泊をしながら歩くんですけど、寝ないでずっと歩いたら、テントも寝袋も持っていかなくていいから、すごく荷物を軽くできるかもしれないと思って、それをちょっと実験してみようと。普通はだいたい3泊4日くらいかけるところを、東京から長野まで夜中も寝ないで一人でずっと歩いて行きました。しかも、ちょうど大寒波が来ている時期で、夜、温度計を見たらマイナス12度くらいで。山の中なので、本当に真っ暗で誰もいない道を、12時間誰とも会わずに、極寒の中、自分のヘッドライトの灯りだけを頼りにひたすら歩きました。途中で2、3時間だけ横になって、お湯を沸かして白湯を飲んだりはしましたが、食事もゼリーみたいな行動食だけを時々口にしながら、ただひたすら歩き続けたんです。でも、その歩く以外に何も「無い」という状態が、逆にすごく解放された感覚で、心地よかった。普通は山へ行くとなると、色々な本を読んで下調べしたり、アウトドアショップで必要なものを揃えたり、やらなきゃいけないことがすごく多くて、それを全部やるとなると結構大変なんですよ。でも、そういう色んなことを排除できると、やらなきゃいけないことをやらなくていい、ただ歩くだけでいいっていう状態で、やりたいことだけに集中できる。実際にやってみると、本当に必要なものは意外と少ないんですよね。昔からやってみたいと思ってたことを、ようやくやることができたという貴重な経験でした。

いま自分の中にあるものを見つめ、考える。

作品づくりにおいても、旅から得られるインスピレーションはとても大きいです。家にいるより何倍も、内面的にも外面的にも、旅で気付くことがたくさんあります。若い頃は外から受ける刺激の方が強かったけど、ある時、自分は考えることが好きだと気付いてから、今はずっと考えてばかりです。若い頃の僕はあまり主体性がなくて、「こうでなきゃいけない」って勘違いしていた部分も多くて、学生時代も、美大生ってなぜかインドに興味を持っている人が多かったので、自分もそういうところに行かなきゃいけないと思って、エジプトに行ってみたりしてたんですが、だんだん年を取ってくるうちに、そういうことじゃなくて、もっと自分の中にあるものを大事しようと思うようになってきました。だから、国とかもどこでもよくて、というか、別にわざわざ海外に行く必要もない。場所よりも時間が大事で、僕にとって旅とは、いま自分が思っていること、考えていることを深く掘る時間というか、自分の内面にある本質的な部分にアプローチすることができる時間でもあると考えています。普段それをやろうとしても、途中で投げ出しちゃうというか、日々のやるべきことに追われていると、考える時間を作るのがなかなか難しいんですよね。だから旅に行っている間は、僕はやっぱりずっと一人で何時間でも邪魔されずに考えていられるっていうのがすごく好きだし、しかも目の前には普段見ることのない景色が広がっていて、視覚的にも刺激を受けられるから、すごく贅沢な時間だなと思いますね。

1971年生まれ。静岡県出身。アウトドアメーカーやファッションブランドのカタログや広告のディレクション、またCDジャケットデザインなど、ファッション~カルチャー~ミュージックの全方位にて活動中。アートユニット「ウルトラヘビー」のメンバーとしても精力的に作品を生み出している。近年は執筆活動も盛ん。

ジェリー鵜飼さんの旅の必需品

ウルトラライトハイカーにとって、軽さ=自由。どれも軽さを追求した道具たちです。中でもスプーンは、僕がウルトラライトに一番ハマってた時に、ハーゲンダッツのスプーンの軽さに惚れて真鍮作家さんに作ってもらったオリジナルです。

僕は、山に行くからいつもと違う格好っていうのはあまりしたくなくて、普段の服装にちょっとプラスするくらいの感じでいたいと思っているので、52みたいに普段から着やすいデザインかつ、機能性や軽さといったスポーツブランドクオリティもしっかり兼ね備えている服はとても理想的です。とくにこのストライプのジャケットは、カラーリングやデザインにも遊び心があって、山や旅の時間を楽しんでいる気分を盛り上げてくれそうですね。これからの季節、日常的に着てみたいなと思える一着です。

旅先でいちばん見たかったのは、
いつもよりアクティブになった私でした。

旅の服を選ぶことは、旅に連れていきたい自分を選ぶこと。
心地いい服は、どんなガイドブックよりも私を連れ出してくれる。
行ったことのない場所、見たことのない景色。
そこで出会えるのは、いつもより、少しアクティブになった自分。
新しい出会いは、日常の一歩先で待っている。
さあ、出かけよう。
きょうは、どんな一日になるだろう。

遊べる大人の、トラベルウエア。