フォトグラファー・トラベルライター

谷口 京さん

旅とは、

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旅から得られる無限の学び

ニューヨークにいた頃は、仕事をしてお金を貯めてはそれを全て旅につぎ込むという生活を送っていました。今まで60カ国以上を巡ってきて、印象的だったことはたくさんありますが、強く憶えているのは現地の人たちの生きる強さを目の当たりにした時や、リアルな部分に触れた瞬間です。中でもヒマラヤとアマゾンでの体験は特に強く焼きついていて、この2つは地球上でも対極の場所なんですよ。ヒマラヤは宇宙に近い世界。岩と氷の世界で、高度が上がるほど空気も薄くなり、宇宙に近づいていく。つまり有機物がなくなっていく世界です。一方、アマゾンはその真逆で、360度に生命が蠢き、溢れている世界。同じ地球が持っているエネルギーでも真逆のエネルギーなんです。

いわば両方とも極地で、自力で生きてゆくのは困難な場所。だけど、たとえばアマゾンを歩いていると、ガイドのインディオがふと石のように苔むした木の実を拾うんです。それを鉈で割ると中からクルミのような実が出てきて「これを1個食べれば1日持つから食べとけ」って。いわゆるスーパーフードです。飲み水も、枝に水を蓄えた“水の出る木”の見つけ方を教えてくれたり。実は、アマゾンには食べられるものが無尽蔵にあり、地元の人は鉈一本あれば生きていける。でも僕は何も見つけられない。知識がないと生きていけない。そういう体験が衝撃的で、そこに生き続ける彼らの強さには本当に感動しましたし、旅には自分が地球に生きる存在としての学びが無限にあると強く実感した体験でした。

カメラを放り出したい瞬間にも、
手にはカメラを持っていた。

仕事の撮影で行く時は、当然写真を撮る目的があって動くんですが、プライベートの旅では自分の心が動いた瞬間にしかシャッターを切らないわけで。でもそれって実はすごくジレンマがあって、カメラを放り出したい瞬間があるんです。記録するより記憶したいと思う瞬間が。たとえば、皆既日食の瞬間とか、素っ裸で見ている人とかがいるんですよ。もう着ているもの全て脱ぎ捨てて、涙流しながら吠えてるフランスとかがいたりするんです。そういうのを目にすると、「あぁやっぱ自由だな、いいなぁ」って思うんです。一方でそういう思いとは裏腹に、自分はひたすら写真を撮っている。でも、それが自分の性なんだと気づかされたんです。だから僕はここにいるんだろうなと。だって本当に奇跡じゃないですか。太陽と月が一列に並んで、その瞬間、たぶん重力が一直線になりますよね。彼らはそれを直接全身で感じているんです。見ていてすごく羨ましかった。でも、僕にはそれはできなかった。何度も行きましたけど、やっぱり手にはカメラを持っていました。

1枚も写真を撮ることができなかった「9.11」

自分が何を撮りたいのかっていうことに、すごくリアルに気づかされる転機になったのが9.11でした。2001年9月11日、あの日僕はニューヨークにいて、実際に見ているんですが、一切何も写真が撮れなかった。その日に限って、NYファッションウィークでコレクションのランウェイを撮る仕事をやっていて、普段使わない望遠レンズやフィルムも100本くらい持っていたんです。ちょうどマーク・ジェイコブスのショーの最中でした。それが中止になって、1つ目のビルが崩れて、2つ目のビルも燃えていました。そんな状況で、ショーの会場には世界中からカメラマンが集まっていたわけですから、彼らは皆ジャーナリストとして現場へ向かっていました。でも僕は、その日カメラバッグがあって望遠レンズもあってフィルムも100本あるのに、1枚も写真を撮っていないんです。もう「撮る」っていう考えが頭に浮かばなかった。これはもう僕が撮るサブジェクトじゃないと。その瞬間、僕はそこでは傍観者でいたんです。これは自分の目的じゃないっていうのを無意識に感じたんだと思います。でも、それに気づくまでに1年くらいかかりました。やっぱり、後になって「何故自分はあの時写真を撮らなかったんだろうって」自問し続けていましたし。

写真を通じて、心が震える瞬間を伝えたい。

それから3ヶ月くらい経って日本に帰国して、そのままラオスやカンボジアなど、アジアを周る旅に出ました。もちろんカメラを持って旅していたんですが、やっぱり写真が撮れなかった。あの日以来、「自分は一体何が撮りたいんだろう」とずっと悶々としていましたから。でもある時、ラオスの田舎の田んぼを歩いていたら、ふとそこにいる子供達が目に入って。稲籾がいっぱい入ったバケツを持って、おばあちゃんと一緒に田んぼの中を歩いていたんです。で、こちらに手を振ってくれたんですよね。日本人を見かけることなんて珍しいですから。「サバイディー(こんにちは)」って。本当にきれいな夕日の中で、子供達とおばあちゃんがいて。その情景がすごく可愛くて、美しくて、気がついたら写真を撮っていました。その時に「あぁ、自分はやっぱり美しいものを伝えたいんだな」って思ったんです。ピュアにそれを感じさせられて、自分の本当に撮りたいものに気づく大きなきっかけになった体験でした。心が震える、琴線に触れるってこういうことかと。そういう心から美しいと思えるものに触れることができる瞬間が旅にはたくさんあると思っているので、僕は今でも旅を続けているんだと思います。

京都市生まれ、横浜育ち。日本大学芸術学部写真学科卒業後、渡米。広告写真家·宮本敬文氏に師事後、ニューヨーク市ブルックリンを拠点に独立。写真家としての活動の傍ら、アフリカ·中南米·アジアなど世界約60カ国を巡り2004年に帰国。アフガン復興支援や環境保護など、社会的活動にも積極的に参加するなど、活動の場は多岐に渡る。ヒマラヤをはじめ、登山にも本格的に取り組む冒険好き。

谷口 京さんの旅の必需品

カナダのガソリンスタンドで買ったランタンはキャンドルを入れるタイプのもの。焚き火が好きなので、キャンドル1個でもそこに火が灯るだけで一気に落ち着ける場に変えてくれる存在です。

仕事柄、腕の可動域を確保しておきたいので、腕が窮屈にならないベストは普段からよく着ています。このフリースジャケットも丈感がちょうどいいですし、通気性もすごくいい。素材も摘んだばかりのふわふわのコットンみたいで、空気の層に包まれているような安心感がありますね。でも袖やアームホールは窮屈な感じがなくすごく着やすいです。この上に袖がなくても発熱素材で温かいブレスサーモのベストを着ればどこにでも繰り出せそうですね。

ポーラテックボアフリースジャケット[B2MC952102]

¥17,000+tax

ベスト[B2ME951758] ¥22,000+tax

旅先でいちばん見たかったのは、
いつもよりアクティブになった私でした。

旅の服を選ぶことは、旅に連れていきたい自分を選ぶこと。
心地いい服は、どんなガイドブックよりも私を連れ出してくれる。
行ったことのない場所、見たことのない景色。
そこで出会えるのは、いつもより、少しアクティブになった自分。
新しい出会いは、日常の一歩先で待っている。
さあ、出かけよう。
きょうは、どんな一日になるだろう。

遊べる大人の、トラベルウエア。