フォトグラファー・トラベルライター
谷口 京さん
旅とは、

旅から得られる無限の学び
ニューヨークにいた頃は、仕事をしてお金を貯めてはそれを全て旅につぎ込むという生活を送っていました。今まで60カ国以上を巡ってきて、印象的だったことはたくさんありますが、強く憶えているのは現地の人たちの生きる強さを目の当たりにした時や、リアルな部分に触れた瞬間です。中でもヒマラヤとアマゾンでの体験は特に強く焼きついていて、この2つは地球上でも対極の場所なんですよ。ヒマラヤは宇宙に近い世界。岩と氷の世界で、高度が上がるほど空気も薄くなり、宇宙に近づいていく。つまり有機物がなくなっていく世界です。一方、アマゾンはその真逆で、360度に生命が蠢き、溢れている世界。同じ地球が持っているエネルギーでも真逆のエネルギーなんです。
いわば両方とも極地で、自力で生きてゆくのは困難な場所。だけど、たとえばアマゾンを歩いていると、ガイドのインディオがふと石のように苔むした木の実を拾うんです。それを鉈で割ると中からクルミのような実が出てきて「これを1個食べれば1日持つから食べとけ」って。いわゆるスーパーフードです。飲み水も、枝に水を蓄えた“水の出る木”の見つけ方を教えてくれたり。実は、アマゾンには食べられるものが無尽蔵にあり、地元の人は鉈一本あれば生きていける。でも僕は何も見つけられない。知識がないと生きていけない。そういう体験が衝撃的で、そこに生き続ける彼らの強さには本当に感動しましたし、旅には自分が地球に生きる存在としての学びが無限にあると強く実感した体験でした。
1枚も写真を撮ることができなかった「9.11」
自分が何を撮りたいのかっていうことに、すごくリアルに気づかされる転機になったのが9.11でした。2001年9月11日、あの日僕はニューヨークにいて、実際に見ているんですが、一切何も写真が撮れなかった。その日に限って、NYファッションウィークでコレクションのランウェイを撮る仕事をやっていて、普段使わない望遠レンズやフィルムも100本くらい持っていたんです。ちょうどマーク・ジェイコブスのショーの最中でした。それが中止になって、1つ目のビルが崩れて、2つ目のビルも燃えていました。そんな状況で、ショーの会場には世界中からカメラマンが集まっていたわけですから、彼らは皆ジャーナリストとして現場へ向かっていました。でも僕は、その日カメラバッグがあって望遠レンズもあってフィルムも100本あるのに、1枚も写真を撮っていないんです。もう「撮る」っていう考えが頭に浮かばなかった。これはもう僕が撮るサブジェクトじゃないと。その瞬間、僕はそこでは傍観者でいたんです。これは自分の目的じゃないっていうのを無意識に感じたんだと思います。でも、それに気づくまでに1年くらいかかりました。やっぱり、後になって「何故自分はあの時写真を撮らなかったんだろうって」自問し続けていましたし。


谷口 京さんの旅の必需品
カナダのガソリンスタンドで買ったランタンはキャンドルを入れるタイプのもの。焚き火が好きなので、キャンドル1個でもそこに火が灯るだけで一気に落ち着ける場に変えてくれる存在です。
仕事柄、腕の可動域を確保しておきたいので、腕が窮屈にならないベストは普段からよく着ています。このフリースジャケットも丈感がちょうどいいですし、通気性もすごくいい。素材も摘んだばかりのふわふわのコットンみたいで、空気の層に包まれているような安心感がありますね。でも袖やアームホールは窮屈な感じがなくすごく着やすいです。この上に袖がなくても発熱素材で温かいブレスサーモのベストを着ればどこにでも繰り出せそうですね。

旅先でいちばん見たかったのは、
いつもよりアクティブになった私でした。
旅の服を選ぶことは、旅に連れていきたい自分を選ぶこと。
心地いい服は、どんなガイドブックよりも私を連れ出してくれる。
行ったことのない場所、見たことのない景色。
そこで出会えるのは、いつもより、少しアクティブになった自分。
新しい出会いは、日常の一歩先で待っている。
さあ、出かけよう。
きょうは、どんな一日になるだろう。
遊べる大人の、トラベルウエア。