料理家・フードプランナー

谷尻直子さん

旅とは、

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今につながる、21歳、 ロンドンのミネストローネ。

自分で100万円を貯めて、ロンドンに旅立とうと決めたのが21歳の時でした。10代の頃から海外の洋服や音楽、映画が好きで、その内容をもっと自分で理解したくて英語を習得したいと思ったのがきっかけでしたね。当時はバックパッカーに憧れてて、大きなバックパックに半年分の荷物を詰め込んで旅立ちました。語学スクールの学費や滞在費も含めて100万円で半年間ステイしようと思ってたので、生活費を節約するために毎日ミネストローネを作っていました(笑)ロンドンって外食するとすごく高いんですけど、スーパーだと本当に食材が安くて、野菜は生き生きしてるし、美味しいんですよ。だから私にとってミネストローネといえば20代のロンドンの日々の記憶がよみがえりますね。でも、あの時に行ったから、今でも海外に呼んでいただいてポップアップをやったりできてるので、すごくありがたいなと思います。

現地の市場を巡って作る、
旅先のレシピ。

旅先で現地の食材からインスピレーションを受けることはよくあります。香港とかロンドンとかパリとか、必ず現地の市場を教えてもらってそこに行きます。それで、ポップアップをやる時は3種の食材リストを作ってもらってるんですが、まず1つ目は「日本でしか手に入らないもの」、2つ目が「ロンドンでも手に入るけど明らかに質が落ちるもの」、3つ目は「ロンドンに来たらぜひ使ってほしいもの」というABCリストをあらかじめメールでもらっておくんです。なのでCをなるべく使う様にしていて。だから初日はまずファーマーズマーケットなどに行って、色んな食材屋さんを巡りながらメニュー構築をしていくのは旅で一番ワクワクする時間ですね。現地の街の匂いを感じながら、市場に並んでるものを見て、店主とやりとりをしてインスピレーションを受けたり、新しい知識や発見を得られたり。すごく楽しい時間ですね。

旅先でおいしく食べられるように、 普段の食生活から旅に備える。

でも夏は暑くて死にそうになりますし、場所によっては結構においも強烈なので、正直それとの戦いでもあります(笑)この前モロッコに行ってきたんですが、モロッコのスークと呼ばれてる市場では、本当に数え切れないくらいの種類のスパイスが三角形のピラミッド状に盛られて並んでるんです。だから匂いがすごくて、しばらくいると全身に染み付いちゃうくらいで。でも、旅には息子もよく連れて行くので、やっぱり普段の食事も和食だけに偏らないようには意識しています。和食だけにしてると旅先に連れて行った時に食べられないんですよ。それはやっぱり母親としては一番気がかりなので。だからいろんな旅先でちゃんと現地の食べ物を食べられるように、辛くないスパイスやハーブはなるべく日常の食卓にも盛り込むようにしていて、普段の食生活から旅に備えている部分はありますね。旅ではごはんがちゃん食べられなくて体調を崩すのが一番辛いですから。そういう面ではもう普段の生活も旅中心の考え方になっているのかもしれないですね(笑)

トラブルがおしえてくれた、
自分にとっての本当の贅沢な時間。

モロッコで泊まったホテルが天井の開く部屋で、雨が降ったら自動で閉まると聞いてたんすが、私たちが出かけてる間に雨が降って部屋が水浸しになるっていうトラブルに見舞われたんです。それでホテルの人を呼んで、びしょびしょになった息子のスニーカーを渡したんです。「これ明日履こうと思ってたのにどうしたらいいんですか・・・」って。そしたら、「すぐになんとかします」って持っていって、戻ってきたらもうまるで新品みたいになって返ってきちゃって。中綿が入れられてて、ホテルのロゴのシールが貼られた箱に入ってきて。どうやら王族の方も泊まったことのあるようなホテルだったみたいで、たぶん彼らにとってはそれが当たり前のサービスだったみたいなんですが、う〜んなんかそういう贅沢は大丈夫です・・・乾けばいいんです・・・とか思って(笑)本当にコントみたいな体験でした。でも、世の中には色んな贅沢があるけど、私たちが求める贅沢はこういうことじゃないなってことが明確にわかったんです。ミニマルな中での豊かさ、時間をもらえることの豊かさをすごく大事にしてるので、そういう時間をもらえないと言うか、過度にお世話されるみたいなことは、私たちにとって贅沢とは呼ばないなと改めて思いましたね。もちろんそういう心地よさを求める方もいらっしゃるでしょうし、人それぞれの心地よさを求めるのが旅という時間なのかなと思った体験でした。

旅に出ることは、自分の内側に入っていくこと。

旅に出ることは自分の内側に入っていくことと同じ作業だと思うんです。ヨガも同じで自分の内側を見つめるっていう作業なんですけど、そういう意味では、旅も自分の日常にとって重要なことだと思っています。外に出ることで、普段生活している環境のありがたさや、日常の何気ない時間の尊さを感じたりすることもできるし、自分が本当に大切にしたいことが何なのかを見つめ直すきっかけにもなってくれる。料理も自分ひとりで黙々とやっている時は、ある意味メディテーション的な自分の内側を見つめる作業にすごく近い部分もあって、たとえるなら食材と会話するみたいな感じなんですよ。でも、お店でお客様とか、誰かのために作る場合はやっぱり外に向かうので、それはまた別なんですが。だから私にとって旅とは、料理やヨガと同じように、日常を心地よく過ごすためにもなくてはならない大切な時間です。

ファッションスタイリスト、ブランドのプロデュースを経て、料理家に転身。現在は渋谷富ヶ谷にて、週末だけの完全予約制レストラン「HITOTEMA」を主宰。雑誌やWEBメディアなどでのレシピ提案をはじめ、食の仕事を軸に幅広い分野で活躍中。著書に『HITOTEMAのひとてま』(主婦の友社)。

谷尻直子さんの旅の必需品

時計は70年代製のロレックス・サブマリーナ。NATOストラップに変えて愛用しています。飛行機の中で、自分の手を使って旅先の時刻に合わせる作業も旅気分を盛り上げるスイッチの1つですね。

すごく軽くてびっくり!アウターは特にかさばるから絞らないといけないアイテムなので、コンパクトになるのも嬉しいポイントですね。あと、旅先に持っていく服は何にでも合う汎用性を重視しているので、色もこういうライトグレーってどんな服にも合わせやすいからいろんな場面で活躍しそうです。キャンプにも行くので、昼夜の気温差が激しいところでもこういう1枚パッと羽織るだけで対応できてしかも洗える!っていうアイテムは嬉しいですね。

旅先でいちばん見たかったのは、
いつもよりアクティブになった私でした。

旅の服を選ぶことは、旅に連れていきたい自分を選ぶこと。
心地いい服は、どんなガイドブックよりも私を連れ出してくれる。
行ったことのない場所、見たことのない景色。
そこで出会えるのは、いつもより、少しアクティブになった自分。
新しい出会いは、日常の一歩先で待っている。
さあ、出かけよう。
きょうは、どんな一日になるだろう。

遊べる大人の、トラベルウエア。